厳密にいうと初対面ではないけれど、それに近い男の人の車に乗るなんて、なんて大胆なことをしているんだろう。

私は創希さんの運転する車の助手席で、お行儀よく座りながらそんなことを思う。

あれから華乃は本当に夜遊びに繰り出してしまって、そっちについて行こうかと思わなくもなかったのけれど、彼女の行先は私のような庶民には場違いな会員制クラブらしい。

そこについていく勇気はないし、さっきの高級フレンチでお財布の中身が心もとないこともあり、私は創希さんに家まで送ってもらうことにしたのだ。

私の住所をナビに入力した創希さんは、所要時間二十三分の文字を見て、ため息をこぼした。


「三十分も口説けないのか。厳しいな」

「え?」


本当は聞こえているくせに、反応の仕方がわからずわざとらしく聞き返す私。

ミラーで後方を確認しながら車を発進させた創希さんは、ハンドルを握りながら悪戯っぽく言った。


「金曜の夜だし、いっそこのままどっか行っちゃう?」

「い、行きません! 自宅直行でお願いします!」

「はは、冗談だよ。……でも、左車線でゆっくりでもいい? 早く帰りたいなら急ぐけど」


……そんな、優しい聞き方ってずるい。私に判断を委ねているように見えるけど、わざと断れないようにしているみたい。

でも……ゆっくりでいいのは、本当かも。