斗真は滅多に家か病院から出ることが出来ず

旅行なんて行ったことがない

お兄さんたちはそんな斗真のために写真を送ってくれるのだが

斗真は見る度に自分の弱さを実感してしまうから

見たくないと拒否をしていた




『…辛いか?やっぱり』


『…当たり前でしょ…?
柿沢くんは健康だからわからないよ…』



言った斗真はハッと俺を見た




『ごめんっ…
別に嫉妬しているわけじゃないんだ

僕って呆れちゃうほどネガティブだから…
こういうこといっぱい考えちゃうんだよね

気にしないでね?』


『…いや
嫉妬するのは当たり前だ

俺がお前の立場なら嫉妬するよ』


『…柿沢くん…』


『その柿沢くんって言うの止めね?
樹って呼べよ』


『樹……?』


『ああ
そっちの方が慣れてるし』


『じゃあ…
僕のことも斗真って呼んでよ

同い年から呼ばれたことないから…』


『わかった…斗真』





それから俺らは

この間までの沈黙が嘘のように

暇さえあれば話すようになった

話すのは専ら俺

学校生活やサッカーチームでの出来事を話した

斗真はやけに嬉しそうに聞いていた

それが嬉しくて

俺は人見知りが嘘のようにペラペラ喋った




だけど俺の手術が終わり

退院へ近づいた頃

斗真は流行っていたインフルエンザにかかり

体調の安定しない日々が続き

結局ろくに挨拶もしないで

俺は退院を迎えた