~15年前~



「想ちゃん、想ちゃん、早く、早く」


可南子は先に小学校の裏山にあるベンチに腰掛け、まだ階段を上っている想太に向かって叫んだ。

この高台にある公園は、可南子と想太のお気に入りの場所だった。
奥に進むと福岡の街が見下ろせる。
12歳になった可南子と想太は、この場所で二人きりで会うことを毎日楽しみにしていた。


「想ちゃん、急がないと、もう日が暮れちゃうよ」


可南子は習い事にたくさん通っていたために、想太と会える時間が限られていた。
想太はやっと階段を上り終えると、ふてくされた顔で可南子の隣に座った。


「可南子が忙しすぎるんだよ」


想太は、ウキウキした顔で座っている可南子の膝の上に交換日記を置いた。
二人だけの秘密の場所で、二人だけの秘密の日記を交換する。

想太と可南子の初恋は、初恋という可愛い言葉でくくれない程の大きな情熱を宿していた。