今宵、君の翼で


お線香の匂いは好きじゃない。


お兄ちゃんが死んだとき、嫌ってほど嗅いで大嫌いになった。


お通夜はたくさんの人たちがきてくれた。


親戚はもちろん、母の同僚、友人、近所の人。

母は沢山の人に愛されてきたんだとこのとき初めて知った。

娘なのに何もわかってなくて、本当に私はバカだよね。


遺影の中で笑っている母を、私はただ呆然と見ていた。


これからは心の中で母に話しかけるしかない。


でも…もう答えてはくれない。


もう、抱きしめてもらうこともないんだ。


父も時折涙を見せながら色んな人と話をしていた。


それを見て、私は少し安心した。


父が泣いてくれてよかった。


「美羽」


そのとき、翼が弔問にきてくれた。


心配そうな表情で私を見つめる。


「ちゃんと食えてるか?顔色わりーんだけど」


「うん….まぁ」


食べられるわけがない。


忙しいのもあるけど、この世から母がいなくなったことを思うと、ご飯が喉を通らない。


「ちょっとあっちで話せる?」


頷くと、翼は私の手首を掴んで人気のないところへ連れて行った。