「お前…家に帰ってきてたそうだな。ちょうどいいタイミングだった。母さんの最期を…みとってあげなさい」
悲しむ様子が全くない父に、苛立ちが隠せなかった。
「ちょうどいいタイミング?がんと知ってから1年半もあったのに何してたの!?他に方法があったんじゃないの!?凄腕の医者とか言われてるくせに、こういう時に役に立たないなんてタダのやぶ医者でしょ!」
大声で叫ぶと隣にいた翼に宥められた。
しかし、父も私に負けないくらい大きな声で「しょうがなかったんだ!」と叫ぶ。
父の顔は恐ろしいほど蒼白だった。
息を荒げ、体が震える様は恐怖すら感じた。
「裏の手を使ってドナーを探したりもしたんだ!金ならいくらでも積むから…一刻も早くドナーを見つけて手術したかったっ。だが…豪壮にそれが見つかって…」
父は頭を抱えて項垂れた。
裏の手って。
やっぱり…あの手紙は本当だった。
ショックと怒りと、色んな感情が入り混じる。
私は父の前に手紙を差し出した。
「これ…お兄ちゃんの遺言書」
父はゆっくり顔を上げ、その手紙を見つめる。
「遺言書…だと?あいつは事故で…」
「お兄ちゃんはいつか殺されるって思っていたみたい。それって…お父さんのせいでしょ⁉︎」



