太陽と月の陰

「太夫!待ってください!」
「いやや!あいつの席に俺を呼ぶなって言うてるやろ!」
ふりむきざまにへそん兄ちゃんが追いかけてきた男衆を蹴り上げる?

「いやや」
もう何回聞いたことか。

踊りの練習、着付け、座敷遊び。
全部その一言で片付けて
唯一気に入っていたのは歌ぐらい。

言葉遣いも乱雑で男そのものなのに
切れ長の目を少し細めて小さい口の端を少しあげるだけで
ほとんどの客は参ってしまい

気がつくと太夫になっていた兄ちゃん。


「その、どないしたんや?」
「ううん、なんでもないよ」

まだ騒いでるのはわかっていたけど、だまって僕はふすまを閉めた。


「そのは海見たことあるか?」
僕を懇意にしてくれる旦那はんは、船のお仕事をしていると
そういえば前に言っていたな…
「絵でしか」

そう、富士山も、お伊勢さんも、全部
「僕、ここから出たことあらへんから」
「ほんまか!お前はよう物知ってるさかいに」
言いながら旦那はんが僕の腕をとる。

「ん・・・」




「いつか見せたるわなぁ」

帯とかれ体を乗せられながらそう、言われる。
あとはもう目を閉じて相手の望むようにする。

そうやって僕は、僕らは生きている。


部屋の外からまた大きな音が聞こえたようなきがしたけど
旦那はんがいろんなことを言っていたような気もするけど


床で言われたことを真に受けるようなあほなまねはしない。
けど、うそも真実も、すべて受け流して


「いつかこんなとこでていく。」


幼い頃の兄ちゃんとの約束も


今はもう彼方に