(きょうね、がっこうでしょうらいのゆめをかいたの)

(へえー。何て書いたんだ?)

(およめさん)


「俺の夢は叶ったけど、おまえの夢は? 叶ったのか?」

「え? ん……」

「ほぼ、叶ったか?」

「え?」


 やっぱり詩織は、あの夜の一言は憶えてないらしい。


「“ほぼ”じゃダメだろ? おまえの夢は、“およめさん”なんだから」

「おにいちゃん、それも思い出してくれたの?」

「ああ。その後に俺が言った、約束もな」


(もしもの時は、おれの嫁さんにしてやるよ)


「だから、あの約束を果たすよ。遅くなっちまったけど」

「え?」

「あまえを、俺の嫁さんにしてやる」


 言った……

 中学の時の口真似だから、無駄に偉そうではあるが、プロポーズの言葉には違いないと思う。


 詩織は目を潤ませて俺を見ており、当然ながら、「嬉しい!」とか言うと思ったのだが……


「私は“ほぼ”でいいの。無理しなくていいよ、おにいちゃん」

「おいおい、それはないだろ? 無理って何だよ。人の好意は素直に受けるもんだぞ?」

「だって、おにいちゃんは誰とも結婚したくないんでしょ? ましてや私、こんなだもん。子どもの頃の約束になんか、拘る事ないから……」

「詩織!」


 俺は詩織の体を離し、その華奢な肩を両方の手でガシッと掴んだ。


「勘違いすんな」

「え?」

「順番が逆」

「順番?」

「俺は記憶が戻ったからプロポーズしたんじゃない。その前からそのつもりだったんだ。その証拠を見せてやる」


 俺は上着のポケットに手を入れ、中に忍ばせていた小さな小箱を取り出した。走った時に落としてたらどうしようかと心配になったが、ちゃんと入っていた。


「これ、なーんだ?」


 とか言いながら、俺はその小箱を詩織に差し出すようにし、ぱかっと開いた。小箱に入っていた物。それは……

 今日の昼飯の後、俺は詩織に内緒で宝石店に行き、買っておいた指輪だ。うかつにも詩織の誕生日を忘れたので、詩織のイメージに合いそうと思って選んだエメラルドの指輪。大して高価ではないけれども。


「可愛い…… これを、私に?」

「もちろん。エンゲージリングってやつだ。俺的には、男除けも兼ねてる」

「おにいちゃん、ありがとう」

「うんうん。懐かしいな、その言葉。じゃあ、もう一度言うぞ。俺と、結婚してください」

「本当に私なんかでいいの?」

「くどいぞ、詩織。おまえだから言ってるんだろ?」

「わかった。おにいちゃん、わたしをおにいちゃんの、およめさんにしてください」

「おお。してやるとも!」


 俺はもう一度、詩織の体をギューッと抱き締めた。


「これから二人で、楽しい想い出をいっぱい作ろうな?」

「うん」