鬼課長の憂鬱~謎めく可憐な美少女部下~

「俺、詩織に言ったんだ。中学の記憶がないのは、たぶん自分で消したんだって。おそらく俺には、どうしても忘れたい事情があったんだとね。だから詩織は、俺が中学の時の事には触れないんだと思う」

「なんか、複雑なんだね。それは今度聞くとして、詩織ちゃんには話したんだ? 記憶喪失の話を。私には黙ってたくせに……」

「ごめん。詩織がやけに中学の事を聞いてくるからさ、半ば怒鳴るように言ったんだよ。憶えてないんだって……」

「あんたさ、それをもっと早く言いなさいよ」

「それって?」

「詩織ちゃんが中学の事を聞いてきたって話。それ、めちゃくちゃ重要なサインだと思うわよ?」

「あ、そうか……」

「そうかじゃないわよ。そうか、そうなんだ。そうだったんだあ。詩織ちゃん、可哀想……」


 野田はそう言い、グスッと鼻をすすった。どうやら野田は、涙が出てきたらしい。


「あの、野田さん。そんなに詩織は可哀想なんですか?」

「あんたって、本当にバカなのね。可哀想に決まってるじゃないの。詩織ちゃんとあんたに何があったかは分からないけど、あんたは詩織ちゃんにとっては王子様だったのよ?」


 王子様って、野田は初めにも言ってたが、そういう意味だったのか。乙女チックって言うか、大げさな気がするけどな。


「会社を転々とするって、どんなに大変だったか。それでも探して探して、ようやく王子様を探し当てたのに、肝心の王子様は自分の事を憶えてなかったっていうオチ。私だったら、泣いちゃうわよ」

「あ、そうか!」

「なによ?」

「詩織が入社した日、1回目に詩織が泣いたのは俺に再会出来たからで、2回目に泣いたのは、俺が詩織を憶えてなかったからなんだ」

「そういう事ね」

「そういう事だな」


 確かに詩織を思うと可哀想だが、俺としては謎が解けて、かなりすっきりした気分だった。