鬼課長の憂鬱~謎めく可憐な美少女部下~

「なんてね。仮説だなんて、そんな大層な事じゃないの。だって、詩織ちゃん本人が言ってたんだから」

「詩織が? 何を?」

「“私はずっと、課長を探していました”って」

「ああ、それか。それなら俺も憶えてるよ。でも、詩織は後から言い直したじゃないか。“課長……みたいな人”と」


 そのあたりの詩織と野田のやりとりは、俺も憶えている。初め、俺はびっくりしたんだ。詩織が俺を探してたって言うから。知り合いでも何でもないのに……


「そうなのよね。詩織ちゃんに、前からあんたの事を知ってたのかって聞いたら、それはないって言うから、だったらあんたじゃくて、あんたみたいな人を探してたんでしょって、私が言ったからよ。でも考えたの、もし詩織ちゃんが嘘を言ってたとしたら、どうなんだろうって」

「詩織が嘘を?」

「そう。本当はあんたの事を知っていて、でも名前は分からなくて、唯一の手掛かりが、あんたがソフト会社に勤めてる事だけとしたら、全ての辻褄が合うなって、思ったわけよ」

「なるほどね。しかし、なんで詩織がそんな嘘をつく必要があるんだよ? 俺を知ってたならそう言えばいいじゃないか。隠す意味が分からない」

「そうなのよね。それが疑問なんだなあ。まあ、それは置いといて、あんた、本当に詩織ちゃんを知らなかったの? 昔の事だから、憶えてないだけじゃないの?」

「いや、それはないな。詩織はある意味目立つ子だから、会った事があるなら、多少なりとも記憶に残ると思う」

「そうだよね……」

「……あっ」


 不意に俺は、ある事に気付いた。記憶と言えば、俺にはそれが空白の期間が存在する事に……


「“あっ”って何よ? 詩織ちゃんの事、思い出したの?」

「いや、そうじゃない。しかし、俺には記憶がない時期がある事を思い出したんだ」

「なにそれ? どういう事?」

「俺、実は中学の頃の記憶がないんだ。記憶喪失なんだよ」


 俺はもちろん普通に言ったが、野田は「え?」と言い、目を丸くして驚いていた。