鬼課長の憂鬱~謎めく可憐な美少女部下~

「いや、喧嘩はしてないよ。ただ、今日はおまえに詩織の事で相談したかったから、詩織は先に帰したんだ」

「そうなんだ。でもあんた、今変な言い方したよね? 詩織ちゃんを“先に”帰したって、どういう意味なの?」


 さすがは野田だな。よくそこに気付いたと思う。もっとも、わざと気付いてほしくて言ったのだが。

 俺と詩織が一緒に暮らし始めた事を、野田にまだ話していなかった。相談事を言う前に、まずはそれを言わなくてはいけない。


「実は俺達、一緒に暮らしてるんだ」


 簡潔に俺がそう言うと、予想通りだが、野田は綺麗にアイラインが引かれた目を大きく開いた。


「もうなの?」

「ああ。もうなんだ」

「あんたにしては珍しいわね……って、もしかして、詩織ちゃんの方から“押しかけ女房”的にそうなったわけ?」

「ん……それに近いかな」


 野田のやつ、よく“押しかけ女房”なんて言葉を出して来るよなと感心しつつ、確かにそんなようなものだったなと、俺は思った。


「やっぱりか。詩織ちゃんったら、よっぽどあんたに夢中なのね……」

「おまえ、本当は“あんたなんかに”って言いたいんだろ? でも解るよ。俺自身そう思ってんだから。俺のどこがいいんだろうな?」

「なによ、あんた。もしかして、私に褒めてもらいたいわけ? いい男よって、言ってほしいの?」

「ち、違うよ。なに言ってんだよ。俺はまじめに言ってるんだ」

「そう? そんな事より、どうも解せないのよね……」


 野田は目を細め、考え込むような顔をした。

 “そんな事”呼ばわりにはムッとした俺だが、それこそ、そんな事より野田が何を解せないのかの方が気になった。


「詩織の事か?」

「当たり前でしょ? あんた、この前詩織ちゃんから聞いた話、変だと思わなかった?」

「え?」


 俺は思わなかった。どこが変だったのだろうか……