「ちょっと、うとうとしだけだよ」

「そうですか。じゃあ……」


 と高宮は言い、下を向いて胸元のバスタオルに手をやった。


「ま、待て。まだいいんだ」


 嘘だろ。高宮は、今、この場で、バスタオルを解こうとしたんだ。つまり、すっぽんぽんに。まったく、高宮には驚かされるな。


「そうなんですか?」

「当たり前だろ? 向こうにベッドがあるから、そっちへ移動だ」

「はい」


 俺達は寝室へ行き、部屋の明かりをパチンと点けた。

 たちまちベッドが目に入り、そこには枕が2つ並んでいるわけで、高宮はそれをボーっと見ているようだった。


「喉乾いたろ?」

「そうですね」

「飲み物を取ってくるから、おまえはベッドに座っててくれ」

「はい」


 実は喉が渇いたのは俺の方だ。もう渇いて渇いて、喉がカラカラだ。


 冷蔵庫からお茶のペットを1本出し、俺は寝室へ戻った。ペットが2本あれば良かったが、1本しかなかったのだ。

 高宮はベッドに大人しくチョコンと座り、と言っても右足は伸ばしているが、俺はその隣に座り、ペットのキャップをプシュッと開けた。それを渡すと、高宮は小さい口でコクコクと飲み、「美味しい……」と言った。

 高宮からそれを受け取り、俺もゴクゴクッと喉を鳴らして飲み、テーブルに飲み残しのペットを置いた。


「初めてしちゃった……」


 高宮が、可愛い声でそう言った。


「何をしたって?」

「キス。きゃっ」

「ああ、キスね……って、えーっ? おまえ、いつしたんだよ? 誰と? っていうか、このタイミングで思い出話とかするか?」


 俺は正直なところ、高宮の常識のなさに腹が立った。変人にも、ほどがある。可愛いけど、許せない!


「今でしょ?」

「はあ? どこかの塾の先生みたいな事、言うな!」

「意味わかりません。間接とは言え、男の人とキスしたのは、今のが初めてだから……」

「…………」


 俺は言葉が出ず、結露が着いたお茶のペットに向かい、“おまえも冷や汗かいたか?”と、心の中で言ってみた。

 高宮のうぶさ加減には度肝を抜かれる。これはちょっと、いや、かなり、やりにくいぞと思う、俺なのだった。