高宮が、心底野田を想って言っているのは明らかで、こいつ、性格がいいんだなと、今更ながらに俺は思った。しかし……


「それは出来ない。いや、してはいけないんだ。あいつのためにも……」

「どうしてですか? 恵子さんが可哀想です。誰かが支えてあげないと」

「確かにそうかもしれないが、その誰かは俺じゃない。俺にはそれをする資格がないんだ。なぜなら……俺は野田の気持ちに応えられないからだ」

「課長……?」

「野田は、今度も大丈夫だと思う。もう何年もの間、じっと耐えてきたんだから」

「…………」

「さあ、行こう?」

「……はい」


 俺は、野田が去った方向を呆然と見つめ続ける高宮の、その華奢な肩をそっと抱き、駅へ向かってゆっくりと歩き始めた。


 誰か支える人、かあ。野田にも、そんな男が現れればいいんだけどな。

 その時、不意にさっきまでいたバーのマスターが俺の目に浮かんだ。あの一瞬だが、頬を紅く染めたマスターの顔が浮かんで、消えた。

 マスターねえ…… 違うな。


「野田と俺は同期なんだ」


 歩きながら、俺は野田との事を話し始めた。高宮には、包み隠さず話すつもりだ。たとえそれで、高宮に嫌われる事になったとしても。


「あいつ、美人なのに気取ってなくて、サバサバした性格が俺は気に入ってさ……」

「私も恵子さんが大好きです」

「ん。互いに馬が合うっていうのかな。野田と俺は、性別を超えて親友と言ってもいい間柄になったんだ。それで止めておけば、こんな事にはならなかったんだよな」

「え?」

「俺と野田は、何度か寝た事があるんだ」


 横を歩く高宮が、はっきりと息を飲む事に俺は気付いていた。