「あ、恵子さん? こんばんは。奇遇ですね!」

「こんばんは。詩織ちゃん」


 高宮は野田の元へ行き、野田も椅子から降り、「元気そうで良かったわ」とか言いながら、二人はハグした。

 あ、そうか。高宮に同性の友達がいないと思ったが、ここに一人いたんだったな。

 それに気付き、俺は少しだがホッとした。


「速水君、私はのけ者?」

「いや、マスターと親密そうにしてたから、邪魔しちゃ悪いと思ってさ」

「よく言うわ」


 俺は「あはは」と笑い、マスターを見たら……あれ? マスター、顔が赤くないか?

 薄暗いし、すぐにマスターは横を向いたので定かではないが、マスターの頬のあたりがほんのり紅く染まっていたように見えた。風邪でも引いたのかな。


「私に合わす顔がなかったんでしょ?」

「いやあ、あはは」


 笑ってごまかしたが、図星だ。野田に会えば、俺は間違いなく高宮の事を言われると思ったんだ。言われるどころか、責められるだろうと。

 高宮は野田の横に座り、更にその横に俺は座った。


「マスター、俺はいつもの水割り。高宮は何飲む? カクテルにするか?」

「いいえ、私も水割りにします」

「そっか。じゃあマスター、ふたつね」

「はい、かしこまりました」


 高宮には、パステルカラーの甘いカクテルなんかを飲むイメージを抱いたので、ちょっと意外だった。


「詩織ちゃんは、こう見えて酒豪だから」

「なに?」

「飲ませて酔わそうって魂胆なら、無駄よ?」