「詩織ちゃん、昔の事を思い出したからかなあ」


 俺の話を聞き終えた野田は、呟くようにそう言った。


「高宮が、ああなった原因か?」


 俺は高宮を見ながら言った。高宮は、まるで凍り付いたかのようにじっと座ったままだった。


「そう。でもねえ、今朝の件はそれでは理屈が通らないのよね」

「そう言えばおまえ、今朝あいつが泣いた理由は聞いたのか? 何も俺に報告はなかったが」


 そうだった。俺はあの後外出していたが、野田からスマホに連絡が来るものと思っていたのに、結局は来なかったんだ。


「ううん。何も言ってくれなかった。だからあんたにも報告しなかったのよ」

「やはり俺が怒鳴ったからだろ? 今朝と今回の共通点はそこだから。両方とも俺が怒鳴った直後だからな」

「そうなのかなあ。でもね、詩織ちゃんはあんたを嫌ってはいないよ。恐がってもいないみたい。もしかするとトラウマがあって、怒鳴り声に過剰反応するのかもね?」

「やっぱりそうかな? 俺もそうかなとは思ってたんだ」

「あら。あんたにしては鋭いわね」

「高宮は俺に素直で、花が咲いたように笑うんだ。もしかして俺、あいつに好かれてんのかなって…… 今はあんなだけどな」

「そっちなの?」

「ん?」

「トラウマの事じゃないの?」

「トラウマ? 俺がそんな事、わかるわけないだろ?」

「呆れた。感心して損した。あんたはさっさと職場に戻って、詩織ちゃんのコートとバッグを持って来てちょうだい」


 俺は「はいはい」と言って椅子から立ち上がった。野田のやつ、何を怒ってるんだろうか。


「あ、そうか。なあ、職場のやつに何て言おうか?」

「詩織ちゃんの事?」

「ああ、もちろん」

「食事に連れだしたら発熱して、そのまま家に帰す事になったって言えば?」

「なるほど。おまえ、悪知恵が働くな?」

「総務を舐めないで」


 総務って、嘘つきの集まりか?

 ……なんてな。