ああ、蜃気楼が見える……気がする。

まっすぐのびた道の向こうの東山が、熱気でゆらりと揺れた。
暑い。
空気が熱すぎて息苦しい。
日傘をさしていても、下からの反射光がまぶしい。

……さすがに制服にサングラスは似合わないしなあ。
だらだら流れる汗をタオルハンカチでぬぐいながら私、村上 明子(あきこ)は坂を上がった。

最寄駅から学園までは、東に1kmほど緩やかな坂道が続く。
登校も下校も太陽に向かって歩くという、女子には過酷な環境だ。

市バスの最寄のバス停のある大通りからの300mほどは、より急坂となる。
普段なら女だらけのこの坂も、夏休みは閑散としている。
通用門も開いてないので、さらに坂を登った正門から学校へと入る。

このクソ暑いのに、炎天下を走る陸上部に感心しながらスローブを降りて校舎に入る。
あまりにも暑いので、製氷機から勝手に氷を1ついただき、首筋にあてながら生徒会室へ向かった。

「あきちゃん、顔、真っ赤。」
生徒会長を勤める1つ上の先輩にそうからかわれた。

「おはようございます、会長。今日はお昼代ケチってもバスで来るべきでしたわ。」
私はそう歎きつつ、椅子にどかりと座りこみ、スカートをぱたぱたと上下に振った。

「……それ見る度に、ここは女子校なんだっておぞましくなる。」
高校からこの学園に入ってきた会長は、言外に私を窘めた。

「そりゃ、あんたは京都駅からバスやから楽やけど、あきはこの炎天下、延々と歩いてくるんやで。全身汗だくやわ。」
そう言いながら冷えたノンアルコールビールを煽ってるのは、副会長。
副会長は中学からの内部進学生で、私を生徒会役員に引きずり込んだ人。
会長と同じく私より1つ先輩だけど、毎朝同じ電車の同じ車両に乗り合わせたご縁で、中学の時から仲良くしてもらっている。

「あ~、あんた達みたいに女を捨てたくない!恥ずかしい!」
そう言う会長も、冬は制服のスカートの下にジャージを掃いたり、放課後彼氏とデートの日はカーラーを巻いたまま校内を闊歩してたり、充分女子校に感化されてると思うのだが。

「はい、作業始めます。ちゃっちゃとやって、早よ帰ろう!」
グダグダな場を仕切るのは、いつも議長。

書記の私を含めた4人は、役職関係なく滅私奉公で細かい作業や会議に従事させられていた。
まあ、それなりに役得もあるし、先輩がたと仲良くなれて楽しいんだけど。