(うう、既に後悔しそう……)

 特別家事が得意なわけでもない。ちょっと変わったことをしたい、というそれだけで軽率にやって来てしまった私は完全に尻込みしていた。明日からこれを、と渡されたのは和装だ。まさかこれを着て働けと。

 青くなっている私に上司が目配せする。それに従って廊下の端に寄って頭を下げた。どうやら向こうから人が――『ご主人様』がやって来たらしい。

「あれ。兼廣さん、新しい方ですか?」

 静かな足音が立ち止まり、穏やかな若い男性の声がそう尋ねた。

「はい。今日から入りました横谷でございます」

「横谷と申します。よろしくお願い致します」

 一旦顔を上げる余裕もないまま、更に深々と頭を下げた。

「鳴神晃です。よろしく。頑張ってくださいね」

 優しげな声音に安堵する。鷹揚な若様なのだろうか。そろそろと頭を上げて相手を見れば、それは随分見覚えのある顔だった。

「…………えっ。向田君?」

 正面に立っている同年代の青年。それは、大学時代のサークル仲間だった。