金髪少年の落とし物を探して公園を這いまわる。
 しかし一向に見つからないうちに雨脚が強くなってしまい、
 私と少年は公園の隅に祀られた稲荷神社の軒先で雨宿りすることにした。
 行くつも並ぶ緋色の鳥居をくぐり、拝殿の軒先に上がり込む。

 ざあざあと木々の梢を細く揺らす雨は何かを囁きあっているようで、ぼんやり聞いていると眠たくなってきた。

 ――ほら、きっとあの子よ。

 ――あるじ様も気付けば良いのに……。

 本気でうつらうつらしてしまったらしく、不意にそんな声を聞いた気がした。
 はっとなって周囲を見渡すが、当然私と少年以外誰もいない。
 遠い視線の先に悲しみを映し、消沈している少年に掛ける励ましの言葉も出尽くした。
 居心地悪く沈黙していた私は、少年の名前を知らないことに今更気付く。

「ねえ、君の名前は?」

「ぼくの名前?」

「そう。私はね、鈴木花子っていうの」

 スズキハナコ。この名前が、私は昔あまり好きではなかった。
 それこそ山田太郎並のモブい名前だとか、まるでトイレの妖怪だとか、小さい頃散々からかわれたからだ。
 小学生という生き物は存外容赦なく、過酷な世界を生きている。

「すずき、はなこ……? ハナコちゃん?」

 うん、と頷く。その名前が好きになったきっかけが、何かあった気がするのだが覚えていない。
 いつの間にか「ハナコちゃん」と呼ばれることが好きになっていた。

「ぼく、カシ!」

「そう、カシ君かぁ」

 いわゆるキラキラネームというのだろうか。何と書くのかさっぱり想像のつかない名前を復唱して頷く。
 ――カシ。木の名前ね、と昔何かの機会におばあちゃんが教えてくれた気がする。あれは何の時だったのだろう。

「ハナコちゃん! ほんとだ、ハナコちゃんだ!!」

 突然はしゃぎ始めたカシ君に驚く。カシ君は私の手を取ると、上にあがろう! と拝殿の中を指した。

「ちょ、待って、待って! 勝手に上がっちゃ駄目だよ」

「いいんだよ、ぼくのお家だもん!」

 神主さんの家の子だろうか。戸惑った私は思わず適当な言葉でカシ君を止めた。

「でも、絆創膏はどうするの? 宝物なんでしょ?」

 そんなもののことなど忘れたかのようだったカシ君は、
 私の言葉に一旦停止して、まあるい目を更にきょとんと丸めて小首を傾げた。

「うん? ハナコちゃんがいるからいいよ。
 ……あれ? でもハナコちゃんのくれた絆創膏はハナコちゃんの宝物で、だから…………」

 本気で考え込むカシ君を前に、私も呆然としていた。

 そうだ、思い出した。赤い花柄の絆創膏。それは、私があげたものだ。