だって彼はいつもよりずっと優しく微笑んでいる。
彼は、目の前にいる女性が、まさか自分の屋敷の使用人だとは気づいていない。
「ありがとう」
今のわたしは不幸な少女ロズではなく、どこかの令嬢だ。そう思うと、なぜか言葉は繰り返さず、綺麗に発音できた。
おかげでますますヒースはわたしの正体に気づかない。
「君とはどこかで会ったかな? そんな気がする」
「それは口説き文句ですか? 男性は初めてお会いした方に決まってそう言います」
彼に正体を知られてはいけない。
おかしなプライドが生まれた。
わたしはなんとか平静を装ってそう答えた。
うまく答えられたと思うのに、なぜかしら。彼の射貫くような視線がわたしを突き刺してくる。
ひょっとして、もう正体を知られてしまったかしら。
わたしがロズだと知ってがっかりした?



