私は、バラ園に行く途中だった。

数日後、私、『柘植陽菜【つげひな】』の誕生日を迎える。

バラ園で、見事な綺麗な薔薇の花を咲かせている、知り合いのおじさんに、その薔薇を貰いに行くはずだった。

だが、それが、あんなことになろうとは、今の私には、想像だにしなかった。


バラ園に着いた私は、おじさんを捜すために、一つ目の温室に入った。

だが、そこにいてたのは、おじさんではなく、一人の男の人だった。

しかし、一人だけじゃない。

女の人もいてた。

私は、邪魔になるなぁと思い、去りかけたその時、

私は、見てしまったのだ。

その男の人が、牙をたて、女の人の首すじに、かぶりついていくさまを…………。

「…ひっ……。」

私は、声にならない叫び声をあげて、その場にへたり込んでしまった。

私はそうなりながらも、その光景を、一生忘れることはできないだろうと思っていた。

血を何とも美味しそうに飲む、そのヴァンパイアの恍惚な美しい表情。

私は、ヴァンパイアを恐れながらも、『美しい』と思ってしまっていたのだ。

そして、ぐったりと動かなくなった女の人を、丁寧に横たわらせると、そのヴァンパイアは、私のほうを見た。

そうはっきりと冷たい目線で、私を見据えたのだ。

そして、さらに冷たく、感情のない声で、

「見ていたな?」

と、そう言った。