「何か飲みますか」

「ううん、大丈夫」


気が利くところは変わってないな。


「先輩の荷物…まだそのままなんで、勝手に取ってって下さい」

キッチンからコポコポと何かを淹れる音がする。

いいって言ったのに。


「あっつっ…」

「大丈夫!?」


反射のようにキッチンへ駆け込んだ。

コーヒーをこぼしてしまったらしい。
淹れたてなんだから気をつけなさいよ。

こぼすどころでなく、注ぐときに蓋が外れたのか、ぶちまけたに近い。

「ほら、やっとくから巧真は早く水で冷やす。スーツ汚れた?」

「先輩…」

ふと見上げると、巧真が目を丸くしていた。

しまった、つい。


「いいですよ、先輩こそ火傷しちゃうじゃないですか。スーツ汚れるし」

しゃがんで、こぼれたコーヒーを拭き取る。
それに至るまでにも角に肘をぶつけたりしている。


本当は、頼りなくて。

本当は、だらしなくて。

でも──優しくて。優しくて。

温かくて。


ねえ、出会った頃みたいにカッコつけててよ。

私が不安にならないくらいに。

そうしたら、もう大丈夫だって。

心配ないって、思えたのに───。



溢れそうになる涙を、必死でこらえた。