わたしはその人の全てが好きだった。 低い身長、そり残しの髭、少し曲がったネクタイ、男の人にしては少し高い声、黒縁の眼鏡、仕事をしている時の真面目な横顔。 「野中さん」 はっとする。 見蕩れすぎていた。 先生が手に持っていたのは昨日やった英単語の小テストだった。 今回も満点で花マルが付いているそれを受け取る。 先生の渡し方はいつもそっけない。 そんな所も好きだ。 そう、わたしの片思いの相手は先生だ。