驚いたことに、次の相手校は今日は練習を休んでいた。
試合の翌日は休みなんだそうだ。
あと数日で次の試合なのに……。
今日は無駄足になってしまったが、あおいちゃんは明日も来る気らしい。

「……ご、ごめん……私、行けない……。」
夜、静稀さんの舞台を見に行く予定で、チケットを取ってもらっているのだ。

あおいちゃんは笑顔で手を振った。
「いいよいいよ。気にしんとって。頼之さんと2人で来るし。……でも、佐々木には何も言わんほうがいいかも……観劇とかゆ~たら、また、『お嬢』ってからかわれるし。」

ますます私は、しゅんとした。

それにしても、今週はえらくバタバタしたな、と改めてため息をつく。
インターハイ予選だけでも忙しいのに、天花寺のおじさまのお葬式で東京に行って、こうして偵察に遠出してきて、観劇もあって、3日で作戦を立てて、土曜日にもう試合。
さすがに、毎日の予習が大変で、すっかり寝不足だ。

頼之さんの車に揺られてるうちに、私はうたた寝していた。
……遠くのほうで、あおいちゃんと頼之さんの会話が聞こえる……気がする。
ぼや~……と聞き流して、うつらうつらしていたが、途中で、和也先輩のことを話している、ことに気づいた。

「……ほな、佐々木、東京行くん?」
「たぶんな。申し分ないやろ?関東1部リーグのバリバリや。しかも寮費や諸経費も部のスポンサーが出してくれるらしいわ。断る理由がないやろ。」

……なんの話?

「でもまだ全国大会に行けるかどうかもわからんのに……」
「あいつは中学ん時からスカウトが目を付けてた逸材やからな。去年の選手権では2年やのに県のベストイレブンに入ったやろ?あの段階でもう青田買いやってんろ。」

和也先輩?スカウト?
東京!?
……てことは?
和也先輩、マジででサッカーで大学行けるん!?
すごい!!!

何となく私は寝たふりを続けたつもりだったが、鼻息が荒くなり、頬も紅潮したらしく、あっさり2人
に見破られた。

「確定したら、由未ちゃん、来年は東京の学校に編入せんと。」

あおいちゃんの冗談が実現するとは、この時はまだ、露ほども思わなかった。