恭兄さまは、無表情で焼香客一人一人に頭を下げてらしたが、私の時には首をかしげるように会釈してくださった。
口元はかすかに微笑みかけてくださったようだったが、その瞳が揺れた気がした。

お父さまを亡くされて、天花寺の家にたった1人残された恭兄さまの心中を慮ると、私の目からボロボロッと涙がこぼれ落ちた。
私の涙につられたのだろう。
恭兄さまの右目から、つーっと涙が頬をつたって流れた。

……本当は、恭兄さまのそばに行って話しかけたかった。
なんの慰めにもならないだろうけど、私自身も恭兄さまの声を聞きたかった。

でも、後ろがつかえてしまうので、私は後ろ髪を引かれる想いで、自分の席へと戻った。
恭兄さまが喪主の挨拶をされた後、出棺。

父と兄は最後までお手伝いをするらしいが、私は母と共に新幹線で帰った。
結局、恭兄さまに何のお悔やみも言えなかったな……。
私は、我が身の無力さを痛感した。

サッカー部のほうは、きっちり勝ちをおさめた。
ただ、次の準々決勝の相手は、想定していた学校ではなかった。

あおいちゃんと私は、月曜日の放課後、早速そのダークホースの学校へと偵察に赴いた。
電車で行くには遠くて不便だったので、頼之(よりゆき)さんが車を出してくれた……後部座席に
当然のように、ベビーシートが積んであることが微笑ましかった。

……頼之さんはもうすぐ20才になる……2人は程なく入籍するのだろう。
頼之さんと一緒にいると、あおいちゃんはまぶしいぐらいに輝く。
とても幸せそうで、微笑ましい。

あ、そうか。
ここにも、フェアリーがいた。

静稀さんも、あおいちゃんも、誰の目から見ても美人だけど、それだけじゃない。
2人の共通点は、心から幸せな恋をしてるんだ。

今まで、見てきた恋する乙女……百合子姫や知織ちゃんともまた違う輝きを発しているのは、大好きな人にたっぷりと愛情を注がれているから?
愛されることで、こんな風に輝けるのか!

なるほどなあ。

後部座席からずっと2人を見つめていたので、いいかげん頼之さんが困ってたけど、それでも私はあおいちゃんから出るキラキラパウダーにあやかりたくて目が離せなかった。