ヒロインになれない!

……碧生くんが教えてくれるまで全然気付かなかったけれど、恭兄さまはずーっと私の首の後ろにキスマークを付け続けていたらしい。

「最初はアザかと思ったけど、位置や色が毎日変化してるから、どんな彼氏かと興味津々で見てた。気づいてないんだろな〜。かわいそうにな〜。教えてやったほうがいいのかな〜、って。何度も声をかけようとしてたけど気づいてもらえなくて。」
と、碧生くんから聞いた時には、恥ずかしくて口惜しくて腹が立って……。

でも何度抗議しても無駄なようなので、今はもう諦めた。

「早く帰って、うちで文化水準の高い遊びをしたら?」
いつまでたっても離れてくれないので、私はそう促した。

「碧生くんも誘っていい?」
恭兄さまはすっかり碧生くんが気に入ったらしく、すぐに呼びたがる。
幼少期から趣味人のお父さまの影響であらゆるお稽古事を嗜んだ恭兄さまと、日本文化にどっぷり傾倒してる碧生くんはソウルメイト?ってぐらいウマが合うらしい。

……てか、そもそも、碧生くんが私に興味を持ったのだって、私自身じゃなくて恭兄さまの付けていたキスマークってところが……私はただの仲介だったのかもと思う。

「もちろんいいよ。あ、碧生くんが書を習いたがってたで。」
「それはダメ。当家の書は当家の人間にしか教えません。習いたきゃ婿に入ってもらおう。」

昔、私に教えてくれたくせに~。
てゆーか!
「百合子さまにも教えてあげなかったんでしょ?恭兄さまのイケズ!」

「だって百合子は天花寺を出た伯母の娘で、さらに将来はどこかに嫁ぐじゃないか。……そういや、由未ちゃんにだけ教えたって怒ってたね、あいつ。そっか~。」

ふむふむ、と恭兄さまは1人で納得して、しばし考えてから、おもむろに携帯電話を取りだした。

「あ~、碧生くん?今から来ない?うん、終わった。遊ぼ。」
恭兄さまは、またイケズな顔になった。
「碧生くん、書を習いたいんだって?いいよ、百合子と結婚してうちの人間になったら2人に喜んで教えるから。がんばって百合子を口説き落としてね。」



電話を切った恭兄さまは、ご機嫌さんで言った。
「さ、帰ろうか。碧生くんより先に着かないと。」
「うん。さぶいし囲炉裏に火ぃ、熾してね。」
「仰せのままに。奥さん。」