ヒロインになれない!

「ほら、招待状が届いたよ。あなたも一緒だ。」

結婚式から一週間後、はじめての正式な晩餐会のお誘いをいただいた。
恭兄さまから手渡された白い和紙の封筒には「天花寺恭匡様」の横に、同じ大きさの文字で「令夫人」と記されていた。

私は、感慨深くその文字を見つめた。
結婚、したんだなあ。
しみじみと実感する。

「さ!これから忙しくなるよ!」
恭兄さまは、私の肩に手を置いた。
「これからあなたの入る世界は伏魔殿だからね、出来得る限りの準備とシュミレーションを重ねても難癖を付ける人はいっぱいいるから。特にご婦人がただけの場は大変だと思う。」
「うん。覚悟してる。がんばる。」

私は、これまでの数少ない交わりの中でもヒシヒシと感じた悪意や敵意や侮蔑を思い出しながらそう言った。

「そうだね。とりあえずは、がんばろうか。あなたが自分に自信が持てるように。何を言われても胸を張って立っていられるように。」
恭兄さまは、そう言いながら私を抱きしめた。
「……ありがとう。うれしいよ。」

心が幸せで満たされる。
大丈夫。
私は、この人の隣にいるためならがんばれる。

「……百合子が」
「うん?」
ためらいがちに、恭兄さまが続けた。

「百合子があなたを心配してる、って言ったら信じる?」
信じるも何も……

「……うれしい。」
私がそうつぶやくと、恭兄さまは明らかにほっとした表情になって続けた。

「ご婦人がただけの集まりの時に、あなたに同行しようか、って聞いてきたよ。百合子なりにあなたを守ろうと思ってくれているらしい。」
「え!?」
私はさすがにそこまでは思っていなかったので、心底驚いた。

「本当はね、あなたと仲良くなりたいんだよ、あれでも。」
恭兄さまの言葉が私の中から決して消えなかった小さなわだかまりをスーッと溶かした。

ずっと考えないようにしていた。
幼いあの日の彼女の言動は、被害者のように見える私よりも、加害者のようになってしまった百合子姫自身を深く傷つけてしまったのではないかと。
私は確かに驚いたし、身分違いとか、容姿の差とか、百合子姫にいくつもの劣等感を抱いた。

でも、後年の百合子姫の受けた傷は、そんなものではなかったはず。
兄に振られた現場に私が居合わせたことも、実は私達と同じ血が流れていたことも、自尊心の強い彼女をどれだけ苦しめたことか。

想像すると気の毒すぎていたたまれない。