ヒロインになれない!

そして、秋11月。
私達は、築地で仏前結婚式を挙げ、日比谷のホテルで披露宴を催した。

招待客の多さとごたいそうさに面食らったけれど、私は終始控え目な微笑でやり過ごせた……と思う。
よく、「披露宴は花嫁のもの」みたいなことを聞くけど、当家に関してはそういうわけにはいかなかった。
当家を支え引き立ててくださる周囲の名家の御仲間や、口うるさいだけで何の役にも立ってくれないたくさんの親戚連中、そして、新たに恭兄さまが築いてらっしゃる人脈。
全てのかたがたにお言葉をいただき、感謝を述べて頭を下げた宴だった。
疲れた!!!

披露宴ではいくつかの余興があったが、素人・玄人入り混じっての御祝謡はすごく迫力があった。
世間一般でよくやる「た〜か〜さ〜ご〜や〜」をみんなで謡ってくださったのだ。
会場内に低い声の波が広がり、厳かな雰囲気が感動的だった。

その後、碧生くんが「井筒」を舞ってくれた。
11年前に出逢った私達のために選んでくれた美しい言葉に、私よりも恭兄さまのほうが盛大に涙を流してらした。

恭兄さまの兄弟子でもある亡き師匠の息子さんが、スピーチで「玉井」から「深き契りは頼もしや」の一節を謡われたのも趣があった。

……兄弟子の狙い通り、恭兄さまは翌月から再び謡いと仕舞いを習い始めた。

そうそう。
披露宴の受付はホテルのかたにお任せしたけど、結婚式の受付は百合子姫と碧生くんにお願いした。

……事前に碧生くんには百合子姫の写真を見せてアピールして好印象を植え付けておいたのだが、やっぱり百合子姫は一筋縄ではいかないようだ。
碧生くんのチャラく見える雰囲気がお気に召さなかったかな?
でも、百合子姫に冷たくかわされて、碧生くんは逆に興味を持ったらしい。

披露宴で「井筒」を舞ったあと、そのままの姿で百合子姫に話しかけに行っていた。
雛壇の上から目で追っては私に小声で実況してくれる恭兄さまがかわいかった。

まあでも百合子姫は初対面の碧生くんに振り回されて、兄を気にする暇もなくて、むしろよかったのかもしれない。
相変わらず人目を引くかっこいい兄は、今回ずっと希和子ちゃんのエスコートに心を砕いていたから。

披露宴の後、予定してなかった二次会を急遽することになった。
暇な若い友人知人だけが残って、フランクに祝福してくれた。

おばさまと帰ろうとしていた百合子姫は、当然のように碧生くんに引き留められてずっとまとわりつかれて困っていた。

恭兄さまは2人が気になるらしく、ずっと見ていたようだ。