ヒロインになれない!

でも、恭兄さまに碧生くんの条件を伝えたら、逆に、ちょっと笑えないことを言いだした。
「一人、該当者がいる。」
「へ?」
「百合子、どう?」
「ええっ!?」

百合子姫……確かに綺麗なお嬢様だけど。

「僕ほどじゃないけど、必要な教養は一通りわかってるし。」
私は、うーんと、真剣に考えてみた。

「碧生くんで、いいの?大切な従妹の相手として。」
逆にそう聞いてみると、恭兄さまは柔らかく微笑んだ。

「いいと思うよ。一見チャラそうだけど真面目だし。……碧生くんのお家のことは、聞いてる?」
私は首を横に振った。

「聞いてない。ロサンゼルスで育った、とは聞いたけど。」
恭兄さまは頷いて、自分の文机から封筒を取り出してきた。

「内緒だよ。」
そう言って渡された封筒の中は、身元調査の報告書!
そこには、碧生くんの経歴と、御両親のこと、お家のことが詳細に綴られていた。
「代々学者が多く輩出されてる家なんだね。軍功で男爵にも序せられてる。」
……軍功。
「具体的には、武器の開発。そして当時の陸軍大臣の姪が佐藤家に嫁している。これが爵位を与えられた最大の要因かな。」
はあ。
「戦後、アメリカで武器開発に協力することで戦犯を免れたみたいだね。碧生くんのお父上は生物学者。お母上は脳外科医。お兄さんは科学者。」
「ほんまに学者一家なんや。」
「頭は抜群にいいんだろうね。碧生くんは子供の時に囲碁の世界選で入賞もしてたよ。」
囲碁……また、しちめんどくさそうなことを。

「碧生くんは、日本史の研究者希望みたいよ?百合子姫と合う部分ある?」
恭兄さまは、にっこり微笑んだ。
「今のところ、未知数。でも、僕と由未ちゃんみたいに、お互いに歩み寄ることは可能でしょ?」
……私はけっこう努力してると思うけど……恭兄さまも何かがんばってはるとこあったっけ?
「碧生くんのコミュニケーション能力の高さとマニアックなところに期待してみよう。」

恭兄さまは、何だかとても楽しそうに見えた。
どうやら、私が思ってた以上に、碧生くんのことを気に入ってるらしい。

「うまくいくといいねえ。」
恭兄さまほど楽観視できないけど、私も心からそう思った。


前期の課程と試験が終わると、長い休みに入る。
恭兄さまは碧生くんを京都の家に誘おうと試みたが、失敗に終わった。
碧生くんは夏の間中アメリカの家族のもとで過ごした。

私達は東京と京都を行ったり来たりしながら、結婚式の準備を地道に進めた。

大安の午前中に正装でお祝いに来てくださるお客さまにご挨拶することにも、すっかり慣れた。

もう、何を言われても、平気!