春4月。
知織ちゃんと私は、揃って赤門をくぐった。

ただ、知織ちゃんは早くも赤ちゃんを授かり、あっさりと休学した。
既に入籍は済ませ、ホテルのようなサービスのマンションで新婚生活をはじめたが、一条さんの仕事の都合で隠し妻となっている。

恭兄さまはかねてからの宣言通り、私の合格をホームページで確認するとすぐ、元宮家の御当主をお仲人にお立てして京都へと向かった。

3月末に結納が整い、私たちは正式に婚約した。
11月に、結婚式を挙げる予定だ。

……ゆーても既に一緒に暮らしてるし、特に生活に変化はない、と思ってたいたのだが……はっきり言って、甘かった!


そもそも最初の関門は、結納の一週間前。
恭兄さまが京都で発注された結納品が、わざわざ一旦東京のお家に送られてきたその翌日だった。

朝から恭兄さまが張り切ってお座敷の床の間に結納品を飾り付けてらした。
……結納の練習?

ぼんやり見ていた私に、恭兄さまは言った。
「たぶん親戚筋が午前中に何人か来るから、由未ちゃんも一応ご挨拶できるようにしといてね。」

へ?

「なんで?」
「……だって今日、大安だし。来週結納だから、今日しかないじゃない?お菓子は9時に届くよ。あ、でも、お茶出しは、りかさんにお手伝いを頼んでるから由未ちゃんはしなくていいからね。綺麗な格好して座っててくれたらいいよ。」

りかさんは、週に2度お掃除に来てくださっている40代の女性で、うち、つまり竹原家と同じよう
に、この天花寺(てんげいじ)家に代々仕えていたお家のお嬢さんだ。

えーっと……綺麗な格好……。

「着物とか?」

冗談のつもりで言ったのだが、恭兄さまは、さらりと言った。

「……まあ、今日はお祝いを持ってきてくださるんじゃなくて、単に結納品を見るだけだから、洋服でもいいよ。露出の少ないワンピースがいいかな。……あ、でも、結納の後の大安は、和装でお迎えしてね。お扇子、ある?」

マジですか?
私には意味不明な大仰さに、思わず息を飲む。

「結納品を見に?わざわざ?来はるもんなん?」
「だって、由未ちゃんのお家に納めた後は、僕の親戚筋は見に行けないじゃない?」
「……そういうもんなんや。」

よくわからないけど、私は言われた通りにワンピースに着替えた。
桜色で、裾が華やかに広がっていて春らしくかわいい。
セットのボレロジャケットを羽織って入学式に出るつもりだったものだ。

「これでいい?」
恭兄さまに見せに行くと、結納飾りを並べ終わった恭兄さまが、目録を確認しながら、私を見た。