「お前、見た目の割にゴリラみたいな性格だよな」

目を閉じれば思い浮かぶのは、目玉焼きにはしょうゆだよな、みたいな軽い調子で聞いてくる、今は朧げな彼の顔。

今思えば、幼いガキんちょのたわごとだ。

しかし当時の私のボキャブラリーではそれを打ち負かすほどの力はなく、むしろ高校生になった今、クソガキの言葉を受け止められるほど心が成長しているわけではないので……いや、多分幼いころより大ダメージを受けると思う。

当時のショックがノートに書きなぐったスイーツ脳満載のポエムを母親に見られるくらいのものだったら、現在のショックはそのポエムが5年くらい母親の都合の悪い時のネタにされるくらいだ。


幼い子ほど、素直にものを口にする。

弁解のしようがない。

つまり私はゴリラ野郎なのだ。
まごうことなき、ゴリラ女。

しかも救いようがないのは、その後私の人生を大きく左右する羽目になったその言葉を掛けたのが、私が初めて好きになった男の子だったということ。


私は初めてその日、男の子の前で泣いた。

わんわん泣いた。

男の子はめっちゃきょどるわ、周りの正義正論大好き女子軍団にこまっちゃん何泣かせてんのよ! と男の子は責め立てられ、こいつが勝手に泣いたんだよ! と男の子が顔を真っ赤にして否定し、騒ぎを聞きつけた男子も加わり、そのあと女子VS男子で少ない語彙での罵倒大会がレディーファイトしてしまった。