事のきっかけは、11月もいよいよ、終わりにさしかかろうとしていた日のことだった。

学校も終わり、いつものように部室で真冬くんと軽口の応酬を繰り広げていると、唐突に部室のドアが開いた。

部室のドアを開ける人なんて、私と真冬くんと残りは古川先輩くらいなものだから、古川先輩かな? とドアを開けた人物を見やる。

けれど、古川先輩にしてはあまりに小柄なその人影に、私は目を見開く。


「ごめんなさい、ちょっとお邪魔しても、いい?」

「螢ちゃん? どうしたの」

控えめに開いたドアの隙間から、黒い瞳が捨てられてしまった子犬のように、困り果てている。

いつもは冷静でいて、落ち着きを孕んでいるその瞳が弱気になっていることに、鈍感な私ですら気づくほど、彼女──早見螢ちゃんは憔悴、というか疲労しきっていた。

「少しだけ、ここにいても大丈夫?」

「え? あ、うん。大丈夫だよ」

私が頷くと、ほっと肩を撫でおろして部室の中に入ってくる。

きょろきょろと、落ち着きなく周りを見渡す螢ちゃんに、私は自分の隣の席を引いて、座るように促した。

ありがとう、とお礼を言ってちょこんと座る螢ちゃん。

そして、普段の螢ちゃんなら絶対に人前ではしないであろうため息をついたかと思うと、何か考えるように目を細める。

その一連の動作で、螢ちゃんが何やら悩んでいるのだと分かった。