こくりと、唾を飲み込む。

震えるくちびるで、私は言葉を紡いだ。



「あ、ありがとう、三郷くん……その、気持ちは、うれしいです」

「………」

「私今まで三郷くんのこと、そういうふうに考えたことなくて……だからあの、と、とりあえず前向きに考える方向で、もう少し待ってもらえたらな、なんて……」



いいですか?と最後まで口にする前に、彼の頭が顔の横に落ちてきてびくっと反応する。

三郷くんの髪が頬に当たってくすぐったい。私の肩口に顔を埋めたまま、彼ははーっと深く息を吐いた。



「……振られなくてよかった。友達ですらなくなるのは、キツいし」

「三郷くん……」



初めて聞いた弱気な声に、きゅんと胸が鳴った。

……私って、結構ゲンキンなのかも。そう思いながら、ゆるく彼の身体を押す。



「ね、三郷くん。とりあえず、離れ」

「やだよ」

「……え?」



食い込み気味に放たれたセリフに、ぽかんと間抜けな表情をする私。

顔を上げた三郷くんは、もういつもの不敵な笑みを浮かべていた。



「彼氏の件は、保留なんだろ。でも、それとこれとは別」

「別?!」

「どうせ俺は王子様でもヒーローでもないし。今まで我慢してきたぶんやりたいようにやらせろよ」



なにそれとんだ暴言、と反論する前にくちびるを塞がれて、叶わなかった。

ああ、こんなの違う。ずっと憧れているロマンチックな恋とは、全然違う。



「……笹原、こっち向け」



だけど、でも。

こんなに求められてる私って、もしかして、愛されヒロイン?


ヒーローなんていないけど。目の前の暴君がヒーローだなんて認めないけど。

ひょっとしたらこんな恋の始まりも、ありなのかも、しれない。










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