「はい三郷くん、乾杯! 乾杯!」



私が満面の笑顔で差し出した缶に、彼は無言で自分の缶をぶつける。

この温度差。ほんとよく、三郷くんは私の無茶ぶりに付き合ってくれるなあと思う。



「笹原さぁ、こんな時間にひとりで俺んち来て、彼氏は何も言わないわけ?」



後ろ手をラグについてだらーっと足を伸ばしながら、彼が呆れ顔でそう言った。

その言葉に、ビーフジャーキーを持つ手をぴくりと震わせた私。

三郷くんが眉をひそめる前に、えへへと情けなく笑った。



「あはー、振られました。つい数時間前に」

「……マジかよ。またか」

「『また』とか言うし……」



脱力して、パタリとテーブルにつっぷす。

会ったことはないけれど、三郷くんも一応私の彼氏のことは知ってる。

同じ会社のひとつ年上の人。ちょっと童顔で、笑った顔がかわいかった。

約3ヶ月間の、短い交際期間でした。



「付き合い始めたとき、『今度こそ私の王子様!』とか言ってたじゃん。わりと早かったな」

「酔った勢いの恥ずかしい発言はお願いだから忘れて……そんで三郷くん、全然なぐさめる気ないよね」

「やさしくなぐさめてもらいたいんだったら、俺以外のヤツのとこ行けよ」



あっさり言って、缶ビールをあおる三郷くん。

うん、そうだよね。この男にやさしさを期待した私が馬鹿でした。