ぼくはまだ恋をしらない

椋は直接真乃さんの高校に行くことにした。
その日椋は学校を休んだ。
放課後の時間を待って、門の向かい、道路を挟んだ所で椋は花乃と一緒に待った。
「あっ真乃ちゃん…。」
花乃の声で椋は読んでいた本から目を離した。
「えっ!?あの人?」
「うん…そうだけど…。」
椋が指差した先に真乃が居た。
花乃はどうしていいかわからないような顔で椋を見た。
そんな顔をされても椋も戸惑ってしまう。
あの姿は確実にイジメにあっている。
髪は乱れ汚れ、制服はそこらじゅうが汚れている。
足の至るとことに打ち身のような痣がある。
「お姉ちゃん…。」
「花乃…お姉ちゃんも君と同じだったのか?」
「しらない!!そんな事言った事ないもん!」
「そりゃ自らイジメられてますなんて言わないだろ!」
「そうだけど…真乃ちゃんは部活って…部活で怪我するって、お母さんに言ってた…。」
花乃は知らなかった姉の姿に戸惑っていた。
足取り重く真乃は歩き出した。
花乃は真乃を追う様に歩き出した。
「花乃…また今度にしないか?」
花乃は黙ったまま、真乃から目線を外さない。
仕方がなく椋も後を追うしかなかった。

しばらく歩くと公園が見えてきた。
真乃は当たりを見渡すと、さっと公園の公衆トイレに入って行った。
椋と花乃も真乃を追って公園に入った。
トイレから少し離れたベンチに座って真乃を待った。
トイレから出て来た真乃は綺麗な制服に着替えており、髪も綺麗になって先程の姿はなくなっていた。
「いつもの真乃ちゃん…。」
「じゃここで、いつも着替えてたのかもしれないね。」
「うん。」
真乃が椋の前を通り過ぎた。
「あの!!澤田 花乃ちゃんのお姉さんですか?」
突然声をかけられた真乃は身構えた。
「何よ!?」
「僕は〇〇中学2年の神倉 椋と言います。」
「だから、なに!!」
「どうして花乃に死ねと言ったんですか?!」
椋の口調はいつもより強くなっていた。
「…何…なんで?」
「ここに居る花乃が、姉である貴女に言われたと…それが死んだ理由だと。」
「何気持ち悪いこと言ってるの!?花乃がそんな事…。」
真乃は何かに気付き、その場に崩れた。
「真乃さん!?」
「そんな…あれは、違うっ!花乃にそんな事言ってない!!」
「噓!!真乃ちゃん言ったもん!死ねばいいって言ったもん!!!!」
「花乃、ちょっと待って。」
椋の言葉に真乃は顔を上げた。
「花乃?花乃が居るの?ここに居るの?!」
椋にしがみつき真乃は問いただした。
「真乃さん、ちょ…ちょっと落ち着いて!」
「花乃!私、花乃に言ったんじゃない!自分に言ってたの!お姉ちゃんも花乃と一緒なの!あの時花乃がイジメにあってる人ってどうしたらいいって聞いてきた時お姉ちゃんの頭の中に居たのは、自分だった!ずっと死んでしまいたかった。自分を消してしまいたかったの!だから、あの時死ねばいいのにって言った。でも花乃に言ったんじゃない!なのに花乃……。」

あの日いつものように公園で着替えてから家に帰った。
玄関を開けて、花乃の靴があって、あぁ花乃帰ってるんだって思った。
「花乃、ただいま〜。」
家の中に入って部屋のドア開けようとしたら動かなくて、何か重いモノがドアノブにかかっていて、思いっ切り引くとその先に花乃がいた。
花乃は冷たくて、息をしてなくて…なんで?が頭の中いっぱいで床を這う様に子機を取りに行き、母親に電話をかけた。
近くのスーパーで働いていた母親はすぐに帰ってきたけれど、見た事ない顔で、花乃を抱きしめて泣いていた。
私はその場に居るのに居ない様な変な感覚で座り込んでいた。
ドラマを見ている様な、実際に目の前で起こっていないような感じがした。
帰って来る時に母親が電話してたのか、程なくして救急車が来たけれど、花乃を見るなり首は横に振られた。
何が起こったか頭も心も追いつかなくて、泣く事も出来なかった。
すぐに花乃の死はメディアに捕まり私達家族を置き去りにした。
花乃が死んだ理由がイジメだと聞いて、あぁ私と一緒だと思った。
花乃のお通夜や葬式が終わって、花乃が灰になった時頭に花乃との会話が流れた。
花乃が死を選んだのは、私の言葉が引き金になったのではないかと…。
もしそうだとしたら、花乃を殺したのは……わたし…?
気が狂いそうだった。
花乃は私が殺したんだ。
私が…私が…。


真乃の言葉に花乃は大声で泣いた。
「花乃!お姉ちゃん、花乃が居たから頑張ってこれてたの!花乃が私の希望で、私の居場所だった!どんなに辛い日でも帰れば花乃が笑って、おかえりって抱きついてくれば、吹き飛んでた。なのに…私が言った言葉で花乃は死んじゃったんだよね…ごめん、ごめんなさい!」
「お姉ちゃん…。花乃の言ったんじゃなかったんだ。なんだ、あれは花乃に言ったんだと思っちゃった…花乃、死んじゃった。」
「花乃…お姉ちゃんも花乃のところに行くから。」
手に握られたカッターナイフが光った。
真乃は思いっ切り握られたカッターナイフを首に当てた。
「真乃!!そんな事花乃は望んでません!」
「私、もう生きていたくないの…もう花乃が居ないんだもん。」
「なら、尚更真乃さんは花乃の分も生きないといけないんじゃないですか!?それに今真乃さんまで死んじゃったら両親はどう思います?そんな悲しい思いをまたさせるんですか?」
「うるさいっ!」
真乃は一気にカッターナイフを引こうとした。
「止めてっ!お姉ちゃん!!」
花乃が真乃の体に抱きついた。
「……何…これ?」
真乃が手を止めた。
「今、花乃が真乃さんに抱きついてます。」
「これ…花乃の…いつも抱きついてたのと一緒。」
真乃は腰に回された花乃の腕を感じられた。
いつものように真乃は妹を抱きしめた。
「お姉ちゃん。」
「花乃。」
その光景を見ていた椋は胸が苦しくなった。
「真乃ちゃん、花乃もう行かなきゃ。」
花乃が真乃から離れた。
とたんに真乃は自分から花乃が離れたのがわかった。
「椋くん、花乃が離れた!花乃どこ?」
「真乃さん、花乃はもう逝くみたいです。」
「逝くって…?」
「お兄ちゃん、真乃ちゃんに伝えて。」
「うん。真乃さん、花乃が最後に伝えて欲しい事、今から言います。」
「花乃ね…お姉ちゃんの事世界で一番、宇宙で一番好きだった。今もこれからも、大好き。だから生きて!お姉ちゃんは花乃のところに来ないで。もっと先のもっともっと先におばあちゃんなった真乃ちゃんが来るの待ってるから。」
「うん、うん、わかった。」
「お姉ちゃん、またね。」
「うん、バイバイ花乃。」
その言葉を聞いた花乃は笑顔で消えていった。
その瞬間真乃の頬を温かい風が撫でた。
「椋くん、花乃行っちゃった?」
「はい、笑顔でした。」
「そっか。椋くん、ありがとう。君のおかげで花乃、ちゃんと天国行けたよね。」
そう言って真乃は涙を拭うと歩き出した。
「さっ私も前に行かなきゃ!椋くん本当にありがとう!」
真乃が大きく両手を振った。
僕は深く頭を下げた。
真乃さんが見えなくなるまで、頭を下げた。
これで、よかったんだ。
弱さが招いた悲劇だったかもしれないけど、花乃は笑っていた。
椋は大きく伸びをして家に帰った。