村木さんが居なくなってから季節は変わり木々たちが色付き始めた。
朝晩の気温も少し肌寒くなってきたようにも感じる。
いつの間にか箪笥の中の服は秋冬物に衣替えを済ませてあった。
母親はいつも僕が知らない間に僕の周りの事を済ましてくれたりする。
自分も働いていて忙しいはずなのに、一体そんな時間が何処にあるのだろうと不思議に思う。
それだけ親という生き物は強いのだろうか?
僕には、まだ理解出来ないけど、間違いなく僕の母親は強い人だと言える。
僕が6歳の時父親が死んだ。
けれど、母親は僕の前では泣いたりしなかった。
それからも母親が泣いてるのを見たことがない。
そんな母親の涙を、まさか朝一番に見る事になるとは思っていなかった僕は階段を降りて固まった。
「母さん??どうしたの?」
僕の声に慌てて母親はテレビを消した。
「ごめんごめん。わぁもうこんな時間!?」
「何があったの?」
「今ニュースで若い子が亡くなったみたいで、気の毒って思ったらね…もう年だわ。涙腺弱くなったのね。さっ御飯食べて!」
「それだけならいいけど、降りてきたら泣いてるんだもん。びっくりしたよ。あっいただきます。」
「はい、どーぞ。朝からびっくりさせて、ごめんね。」
そう言って母親はペコッと頭を下げた。
いつもより椋は早めに家を出た。
秋の朝の空気を椋は好きだった。
少し冷たくなった空気も、風の香りも陽射しも好きだった。
だからこの時季は少し早め出て、ゆっくり歩いて登校する事が多い。
「今朝のニュース見た!?」
ゴミ出しをしていた奥様達の井戸端会議もこの心地よい朝なら許せる気がする。
「見た見た。小学6年生の女の子でしょ?!」
あぁ今朝のニュースって母親が見てたやつだと思った。
「そうそう、それであれでしょ。自殺なんでしょ。」
えっ…噓だろ…。
こういったのも阻止するには難しく、いつも耳に入ってしまう。
「小学6年生で自殺なんてねぇ。可哀想に…。」
さっきまでそこに居なかった女の子が井戸端会議に参加してるのを見つけてしまった。
自分の事が話題になってるのを、あの子は理解しているんだろうか?
僕の目線に気付いた奥様達が怪訝な顔で僕を見てヒソヒソ声に切り替えた。
女の子も僕に気付き、駆け寄って来た。
「お兄ちゃん、私が見えてる?」
「うん。」
「そっか…私ね幽霊になったの。」
「うん。知ってる。僕しか見えていないからね。」
その台詞が聞こえたのか奥様達がそそくさと家に帰って行く。
「ふ〜ん。じゃ前から幽霊見えてるんだ。」
「うん。君はどうして幽霊になったか覚えてるのかな?」
「…うん。」
その質問は女の子には辛い事だったのか、それ以上は話さなくなった。
「僕、今から学校なんだ。一緒行くかい?」
「いいの?」
「うん。けど、話したりは出来ないよ。みんながみんな僕の様に君が見えるわけじゃないからね。」
「うん、わかった。」
「何か言いたい事があるなら、その時は場所を考えてみるから。」
女の子は僕の言葉に素直に頷いた。