「椋、大丈夫?ショックなのはわかる。でも、ちゃんと一度しずくちゃんに会いなさい。」
「うん…わかってる。」
椋は母親と一緒にしずくの病室に行った。
けれど、やっぱり病室の前で足が竦んだ。
「椋、開けるよ。」
「うん。」
母親が戸を開けると、おじさんもおばさんもそこに居た。
「わざわざ来てくれたの?」
「当たり前でしょ!!」
母親としずくの両親は仲が良かった。
もともと友達同士だった親達は、椋達親子が越して来たのをきっかけに再度親交を交わすことになった。
椋としずくが兄弟の様になるのに理由はなく、当たり前の事だった。
なのに、しずくの感情は家族愛ではなく、異性として椋が好きだった。
初めて椋を見た時。
母親の影に隠れる様にしていた事を、私は鮮明に思い出せる。
あの初めての時から、私は椋だけを見てきた。
初めて椋を見た時、心臓がバクバク踊りだしたんだ。
それから、ずっと、ずっと好きだった。
だからこそ椋の気持ちが自分どころか異性に興味がない事も気付いていた。
それも仕方がない事だと思っていた。
私には見えない者が椋には見えている事を知ったのは、一人で話してるのを見た時だった。
でもそれは独り言ではなく会話だったので、幽霊と話せると思った私が聞くと椋は、あっさりとうん。言った。
そして、「しずくなら知られていいや。」と言った。
怖さや気持ち悪さは微塵もなく、それよりも、そんな大事な事を教えてくれた事が嬉しかった。
自分は特別なんだと思えた。
それが妹的な存在でも、それでもいいと思えた。
少しでも椋の力になりたくて、行きたくない学校にも行った。
花乃ちゃんに出会った時、まるで自分を見てる気持ちになった。
イジメを軽く受け止めてる様な椋の言動に心が痛んだ。
椋は私が死んだら、それでもイジメをそれぐらいだと言うのだろうか?
少しは悲しんでくれるのだろうか?
親は?みんなは泣くのだろうか?
そんな事を考えながら廃ビルの階段を上がってた。
結局出た結論は、私が居なくなった方がいいという漠然とした答えにならない答えだった。
ただただ、辛さや苦しみから逃げたかった。
この先もずっと続いていくんだという恐怖から逃げたかった。
非常階段の手すりを掴んだ時。
私の中にあった疑問は全てなくなり、これで終われるんだという喜びしかなかった。
そして体を手すりの向こう側に投げ出した。
近付いて来る地面を見て薄れゆく意識の中でページをめくる様に記憶が流れて行った。
初めて椋に会った時、初めて手を繋いだ時。しずくちゃんから呼び捨てになった日。そして……。
最後の最期に浮かんだのは椋が私に向けられた笑顔だけだった。
「椋……。」
後ろから声をかけられて振り返った。
目の前にはベットで眠っている、しずくが居る。
「これ、どうゆう事?」
「なんとか一命は取り留めたんだけど…意識がまだ戻らないんだ。」
おじさんが僕に言った。
「えっでも…?」
椋は後ろを振り返る。
間違いなくそこには、しずくが居る。
「お前何やってんだよ!!」
「椋…どうしたの!?」
椋の奇行に母親は戸惑っている。
しずくの両親も椋を止めようとした。
しずくの姿を見た椋を、おかしくなったと思ったのかもしれない。
けど椋はそんな事どうでもよかった。
誰に何を思われてもいい。
おかしくなったでも、頭が狂ったとでも思えばいい。
今は目の前に居る、しずくと話さなきゃいけない。
幾つもの線や管に繋がれてる しずくの痛々しい体を指差し、自分にしか見えていない しずくに向かって叫んだ。
「お前まだ死んでないだろ!!なんでそんな姿で僕に会いに来た!!僕は自殺で『死んだ者』しか相手にしないんだ!そんな事お前だって知ってるだろ!?」
「椋くん!!しっかりするんだ!」
おじさんが何もない壁に向かって叫ぶ椋を力尽くで止めようと抱きしめた。
「おじさんっ!違う。しずくは此処に居るんだ。なのに、しずくは体に戻ろうとしない!このままじゃしずくは本当に死んじまう!!」
おばさんが声を上げ泣き崩れた。
母親はおばさんに駆け寄った。
「椋くん、頼む…しっかりしてくれ。しずくはまだ生きてる…。」
「しずく!!なんで黙ってるんだよ!?」
「椋…私、戻りたくないの…。」
その言葉の意味が椋は理解できなかった。
「何言ってんの?なんでそんな事言うんだよ!?」
「私…椋のそばに居る時が一番幸せで、一番私らしくいれたの。」
頬を涙が伝っていく。
「これからだって一緒に居ればいいだろ!?」
「ううん。それは私が願ってる形じゃないんだもん。椋は私に恋してないでしょ?」
「そんなの知るかよ!恋とか愛なんてわかんねーよ!僕はしずくが居ないと駄目なんだ!それじゃ理由にならないのか!?」
しずくは何も答えない。
しずくが静かに微笑んで目を閉じた。
その瞬間後ろから、けたたましいアラームが鳴り響き看護師が入ってきた。
ドラマや、映画で見た事のある光景だった。
しずくの姿が何処にも見当たらない。
椋はしずくの名前を呼び続けた。
緊急のアラームはしずくの命が止まろうとしてるのを知らせるものだった。
おじさんや僕達は部屋から押し出され成す術がなくなった。
「しずく、戻ってこい!!頼むから…。」
椋は何度も壁に拳を打ち立てた。
「うん…わかってる。」
椋は母親と一緒にしずくの病室に行った。
けれど、やっぱり病室の前で足が竦んだ。
「椋、開けるよ。」
「うん。」
母親が戸を開けると、おじさんもおばさんもそこに居た。
「わざわざ来てくれたの?」
「当たり前でしょ!!」
母親としずくの両親は仲が良かった。
もともと友達同士だった親達は、椋達親子が越して来たのをきっかけに再度親交を交わすことになった。
椋としずくが兄弟の様になるのに理由はなく、当たり前の事だった。
なのに、しずくの感情は家族愛ではなく、異性として椋が好きだった。
初めて椋を見た時。
母親の影に隠れる様にしていた事を、私は鮮明に思い出せる。
あの初めての時から、私は椋だけを見てきた。
初めて椋を見た時、心臓がバクバク踊りだしたんだ。
それから、ずっと、ずっと好きだった。
だからこそ椋の気持ちが自分どころか異性に興味がない事も気付いていた。
それも仕方がない事だと思っていた。
私には見えない者が椋には見えている事を知ったのは、一人で話してるのを見た時だった。
でもそれは独り言ではなく会話だったので、幽霊と話せると思った私が聞くと椋は、あっさりとうん。言った。
そして、「しずくなら知られていいや。」と言った。
怖さや気持ち悪さは微塵もなく、それよりも、そんな大事な事を教えてくれた事が嬉しかった。
自分は特別なんだと思えた。
それが妹的な存在でも、それでもいいと思えた。
少しでも椋の力になりたくて、行きたくない学校にも行った。
花乃ちゃんに出会った時、まるで自分を見てる気持ちになった。
イジメを軽く受け止めてる様な椋の言動に心が痛んだ。
椋は私が死んだら、それでもイジメをそれぐらいだと言うのだろうか?
少しは悲しんでくれるのだろうか?
親は?みんなは泣くのだろうか?
そんな事を考えながら廃ビルの階段を上がってた。
結局出た結論は、私が居なくなった方がいいという漠然とした答えにならない答えだった。
ただただ、辛さや苦しみから逃げたかった。
この先もずっと続いていくんだという恐怖から逃げたかった。
非常階段の手すりを掴んだ時。
私の中にあった疑問は全てなくなり、これで終われるんだという喜びしかなかった。
そして体を手すりの向こう側に投げ出した。
近付いて来る地面を見て薄れゆく意識の中でページをめくる様に記憶が流れて行った。
初めて椋に会った時、初めて手を繋いだ時。しずくちゃんから呼び捨てになった日。そして……。
最後の最期に浮かんだのは椋が私に向けられた笑顔だけだった。
「椋……。」
後ろから声をかけられて振り返った。
目の前にはベットで眠っている、しずくが居る。
「これ、どうゆう事?」
「なんとか一命は取り留めたんだけど…意識がまだ戻らないんだ。」
おじさんが僕に言った。
「えっでも…?」
椋は後ろを振り返る。
間違いなくそこには、しずくが居る。
「お前何やってんだよ!!」
「椋…どうしたの!?」
椋の奇行に母親は戸惑っている。
しずくの両親も椋を止めようとした。
しずくの姿を見た椋を、おかしくなったと思ったのかもしれない。
けど椋はそんな事どうでもよかった。
誰に何を思われてもいい。
おかしくなったでも、頭が狂ったとでも思えばいい。
今は目の前に居る、しずくと話さなきゃいけない。
幾つもの線や管に繋がれてる しずくの痛々しい体を指差し、自分にしか見えていない しずくに向かって叫んだ。
「お前まだ死んでないだろ!!なんでそんな姿で僕に会いに来た!!僕は自殺で『死んだ者』しか相手にしないんだ!そんな事お前だって知ってるだろ!?」
「椋くん!!しっかりするんだ!」
おじさんが何もない壁に向かって叫ぶ椋を力尽くで止めようと抱きしめた。
「おじさんっ!違う。しずくは此処に居るんだ。なのに、しずくは体に戻ろうとしない!このままじゃしずくは本当に死んじまう!!」
おばさんが声を上げ泣き崩れた。
母親はおばさんに駆け寄った。
「椋くん、頼む…しっかりしてくれ。しずくはまだ生きてる…。」
「しずく!!なんで黙ってるんだよ!?」
「椋…私、戻りたくないの…。」
その言葉の意味が椋は理解できなかった。
「何言ってんの?なんでそんな事言うんだよ!?」
「私…椋のそばに居る時が一番幸せで、一番私らしくいれたの。」
頬を涙が伝っていく。
「これからだって一緒に居ればいいだろ!?」
「ううん。それは私が願ってる形じゃないんだもん。椋は私に恋してないでしょ?」
「そんなの知るかよ!恋とか愛なんてわかんねーよ!僕はしずくが居ないと駄目なんだ!それじゃ理由にならないのか!?」
しずくは何も答えない。
しずくが静かに微笑んで目を閉じた。
その瞬間後ろから、けたたましいアラームが鳴り響き看護師が入ってきた。
ドラマや、映画で見た事のある光景だった。
しずくの姿が何処にも見当たらない。
椋はしずくの名前を呼び続けた。
緊急のアラームはしずくの命が止まろうとしてるのを知らせるものだった。
おじさんや僕達は部屋から押し出され成す術がなくなった。
「しずく、戻ってこい!!頼むから…。」
椋は何度も壁に拳を打ち立てた。


