暑い夏休みは勉強の毎日だった。
夏休みが終わると、ちらついていた受験はもう目の前に居て僕ら受験生は少なからずピリピリしだしていた。
進路が決まってる者も出てくる中で、受験を控えてる者は授業中でも受験勉強をする者も出てきていた。
それをわかっていながらも、先生たちは何も言わない。
きっと先生たちは毎年こうだと目を瞑っているのかもしれない。
まだまだ暑さが残るこの季節は椋は少し苦手だった。
基本的に暑いのは好きじゃない。
背中を伝う汗に舌打ちしながら椋は玄関を開けた。
二階に上がり部屋に入ると、しずくがベットに座っていた。
「あれ?何してんの?」
母親が一階に居たようには思えなかった椋が不思議に思ってると、しずくは笑いながら「来ちゃった!」と言った。
「う…ん。まぁいいけど、母さん居たっけ?」
「ううん。居ないけど…玄関の鍵開いてたよ。」
「げっ!!マジかよ…物騒だなぁ…母さんって、そうゆうとこ抜けてるんだよなぁ。」
「でも椋の事わかってくれてるじゃない。」
「う…ん、まぁな。でも、しずくも僕の事わかってくれてるよね。」
「そう?」
「うん。で、今日はどうしたの?」
「ううん。別に理由はないけど、椋に会いたくて…。」
「何?どうしたの、急に?」
慌ただしい音が玄関からしてきた。
「椋!!椋!いるの!?」
「いてるよ〜!!」
椋は部屋を出て一階に急いでおりた。
「何?どうしたの?」
息を切らした母親が肩を上下させながら息を整えていた。
「今、しずくが来てるんだけど、鍵開いてたらしいよ。」
「あんた、何言ってんの?」
「だから、鍵開いてたって…。」
「そこじゃなくて、その前…。」
「えっだから、しずくが来てるんだけどって…。」
その言葉を聞くや否や母親は靴を脱ぎ捨て、椋を押し除け二階に駆け上がり勢いよくドアを開けた。
血相を抱えた母親の後を追った椋は部屋の入り口で固まっている母親の肩を掴んだ。
「何やってんだよ!」
振り返った母親は怒って言った。
「あんた悪い冗談やめなさい!」
「何が?!」
「何処にしずくちゃんが居るっていうの!?えっ?!」
「何処にって…。」
そう言われて椋はベットを見た。
しずくの姿はなく、部屋中を見たけど、しずくの姿は影も形もなくなっていた。
「母さん…まさかとは思うんだけど。」
「何よ?」
「急いで帰って来たのって、しずくに何かあった?まさか、自殺したとかじゃないよね?」
「その、まさかよ!!ってなんで、あんたわかったの…って、ちょっと?!」
椋は母親が何かを言い終わる前に走り出した。
無我夢中で走った。
しずくの家に着くと、中から泣き叫ぶ声が聞こえた。
迷う事なく椋は玄関のドアを開けた。
玄関先でしずくの両親が言い争いをしていた。
「おじさん…。」
椋の存在に気づいた おばさんが椋にしがみついた。
「椋くん!!しずくが…しずくが…!!」
泣き崩れるおばさんに椋は足が竦んだ。
おじさんがおばさんを椋から引き剥がす様に抱え立たせた。
「落ち着け!椋くんだって混乱するだろ!!」
「おじさん…しずくは?」
「今は〇〇病院に居てる…さっき連絡受けて今から私達も行くところなんだ…」
「僕も…連れてって!」
椋はおじさんの運転する車の後部座席に乗り込んだ。
母親に行き先のメールをした。
病院って言っても、もうしずくは死んだんだと、椋は覚悟をした。
グッと強く目を閉じた。
さっきまで、僕の部屋に居たのは、紛れもなく、しずくだった。
僕自身まだ自殺の事を知らなかったのに、しずくは自ら僕のところに来たんだと思うと、たまらなく心が締め付けられた。
僕に会いに来たんだと…。