しまった!!!
やってしまった!
朝目覚めて、ボーッとしてたせいか新聞の一面を見てしまった。
絶対に見ないようにしてたのに…朝から正直言って面倒くさい。

【昨夜〇〇ビルから自殺】

見てしまった文字を恨めしく睨んでも仕方がない。

「おはよう。早くしないと遅刻するよ。」
「うん…あっおはよ。」

台所から出てきた母親に言われ僕は学校に行く準備をするのにトーストを咥えて二階に上がった。

「もう、ここで食べなさい!」
「う〜ん、わかってる〜。」

僕は小さい頃からおかしくて、人には見えない者が見えている。
何時からかは定かではないけれど、多分小学生の頃には、ソレが生きた人ではない事がわかっていたようにも思う。
僕はやっぱり変わっていて見えるからと言っても全てではなくて……。

椋は自室の前で止まり深呼吸をした。
ここを開ければ居る。
ドアノブに手をかけ、一気にドアを押し開けた。
ほらね…やっぱり居た。
彼は自分がどうして此処に居るのか理解していない。
自殺した人は決まって自分が死んだ事に気付いていない。
少なくとも僕の所に来る人はそうだ。
「あの〜私は何故此処に?」
「あっ待って…僕、学校があるんで用意しながら説明しますね。」
「はぁ…。」
「お名前は何ていうんですか?」
「私ですか?」
「他に誰がいるんです!?」
椋は着替えながら話を進めた。
「此処に居る理由は僕のせいだと思います。」
「君が?」
「はい、あっ僕は神倉 椋と言います。」
「神倉君…」
「りょうでいいです。」
「じゃ椋くんのせいってどういう事なんだ?」
「それは、貴方が死んでるからです。しかも自殺。」
男の顔色が変わった。
何処にでも居るようなサラリーマン風のスーツ姿の男は椋にとっては、至って普通に見えている。
自殺したからと言っても、どんな死に方をしたとしても、生前の姿で現れる。
ドラマや映画の様に、おどろおどろしいものではない。
僕たちと何ら変わりない姿でそこに居る。
「私が…あぁそうかそうだった。」
思い出したように男は自分の両手のひらを見つめている。
「〇〇ビルの屋上の手摺を越えたんだ…。」
「思い出しましたか…で、本題です。僕の所に来る人はこの世に未練がある人なんです。」
「未練?私が?」
「はい、自ら死を選んだくせにです。」
「ハハッ…そうだね、椋くんの言う通りだな。私は村木 進一郎と言います。48歳だ。」
「48歳?見た目はもっと若く見えました。」
「ありがとう…。」
「で、そんないい歳したオジさんがなんで自殺したんですか?未練に思い当たることはないですか?」
村木は腕を組み黙って考えると思いついたのか顔を上げた。
「学校って言ったけど、大丈夫なのかい?」
「あぁ走れば間に合います。残り5分で話してもらえますか?」
「そうか、すまない。多分なんだかが…一人娘の事は気になってる。」
「なんで自殺したんですか?の答えは?!」
「あぁうん、それは会社がうまく行かなくてね…借金も膨らんでしまって…」
「よくある話ですね…そんな事で自殺しなくても…」
村木は椋の言葉が癇に障ったのか苛立った口調で
「まだ子供の君にはわからない。」
と、言った。
その言葉に今度は椋が腹を立てた。
「はい、わかりません。命を粗末にする理由になんて、わからないし、わかりたくないです。」
「……っ。そうだね。さっきから君の言う通りだな。」
「本題に戻ります。娘さんの何が気になってるんですか?」
「………。」
村木は黙ってしまった。
椋は腕時計を確認した。
一階から母親が急かす声がした。
椋は鞄を持つと部屋を出ようとした。
「僕は学校に行きます。この家では僕以外、オジさんが見える者はいません。まだ僕と話をしたいなら、このままここに居てくれてかまいません。」
村木は俯いたまま返事すらしない。
「では、いってきます。」
椋は階段を駆け下り靴を履くと勢いよく飛び出した。
「気をつけてね!いってらっしゃい!!」
家の前まで出てきた母親が手を振って椋を見送る。
「うん、いってきます!!」
その声に返すように椋は大きく手を振り返した。