コソッとそう言い、顔を真っ赤に染める杏里。


その様子に思わず吹き出してしまいそうになる。


好きな人ができたと友人にカミンアウトするだけでこれほど照れてしまうなんて、本当に可愛い子だ。


女のあたしでも可愛いと思ってしまうくらいだから、杏里の恋はきっとうまくいくだろう。


「それってどんな人?」


「他校の年上の人。昨日服を買いに出かけたんだけど、あたし途中で財布を落としちゃったの」


「えぇ? それ、大丈夫だったの?」


「うん。その年上の人が落としたのを見てたみたいで、すぐに届けてくれたの。


それから名前と年齢と学校名だけ聞いて帰ってきたんだけど、すごくカッコよくて、優しくて、忘れられなくなっちゃった」


杏里はそう言い、相手の顔を思い出したように目をトロンとさせた。


「へぇ、優しい人でよかったね」


それに、最も杏里らしい恋の落ち方だと思った。


ハンカチを落として拾われたり、曲がり角でぶつかったり。


そういう定番的な出会いが杏里にはよく似合う。