~颯side~


妹の希彩が目覚めてから一週間が経過していた。


希彩は随分と落着いて来ているが、いまだに問題が1つあった。


俺はいつも通り706号室のドアを叩く。


中から「どうぞ」と、かわいらしい声がして、俺はドアを開けた。


白いベッドに横になっている希彩が、少し戸惑った顔で俺を見た。


「今日は果物を買って来たぞ」


そう言い、希彩の大好きなリンゴを差し出す俺。


希彩はおずおずとそれを受け取り「……いつも、ありがとうございます」と、とても小さな声で言ったのだ。


その言葉に、俺は軽く息を吐き出す。


「まだ、何も思い出さないか?」


「……はい」


小さく頷く希彩。


そう、希彩は事故のショックで自分の名前さえ思い出せないほど、記憶障害を起こしていたのだ。


すべての記憶を、特に事故前後の記憶を思い出すことはまず無理だろうと、担当医に言われている。