「なんで! なんで、抵抗しないんだ!?」
「え……?」
「嫌だろ、怖いだろ!? なんで抵抗しないんだ?」
「ーー私の右眼で、あなたの気が晴れるのなら」
 そう言うと驚いたのか、男の子の手から力が抜けナイフが滑り落ちます。
「ーーっ! な、にを……」
 目の前にいる男の子は、私よりも年上で大きな背丈の少年。
 けれど私の上で泣く彼は何だか小さく見えて、笑ってしまいました。
 そんな私を見た彼は、ゆっくりと身体を退けて肩を震わせながら私の眼をを見つめてきました。
「なんで……君は、こんなにも小さいのに。俺なんてもう12歳なのに。母さんの病気を君のせいにして、いじめて、殴って、酷い事を沢山したのに……君は笑っていられるんだ?」
 彼はぐずぐずと真っ赤な鼻を啜りながら、小さく呟きました。それもしっかりと私の目を見て。 
 たったそれだけの事でも、すごく嬉しい。
 眼を合わせて会話をするということは相手を認めている事だと思うから。
「私には生きる理由も目標も、何もありません。だから、せめて他人の為にこの命を使いたいのです。私は、生きていてはいけないバケモノですから」