「お前は、泣かないのだな」
王都へ出発する馬車に乗り込むと直ぐに奴隷商人さんが私の顔を見てポツリと呟いた。
「私は『呪われた子』ですから。この8年間育ててくれただけで満足です」
あれだけ嫌われていたのだから、それ以上を望むなんて図々しいというものだ。
「そうか、まあいい。お前、名は?」
「ありません。強いて言うなら『呪われた子』と」
そう答えると、ふむ……と1度考えるように顎に手を添えて言う。
「ならば自分でこれから名乗る名前を決めておけ」
「名前ですか……そうですね、では『アル』でいいですか?」
これは……隣国の古い言葉ーー《旧神聖語》という言語で、以前村に来ていた隣国出身の商人さんが教えてくれた。この国の人には余り知られていない言語なのだそうだ。
「ああ、それで構わない。名乗れと言われたらその名を名乗るように」
「はい」
そして《旧神聖語》で『アル』は「呪い」という意味がある。
「お前は聡明だ。それなりにいいところに行けるだろう」
いいところ? 私は『呪われた子』なので、そんな事はあるはずがない。
ああ、そうか。きっとこの人は知らないんだ、私の呪いを。
「あの、奴隷商人さん」
「何だ、アル」
「私が『呪われた子』だということ以外に両親から何か聞きましたか?」
「いや、私が聞いたのは、お前は呪われている子供だから早く引き取って欲しいということだけだ」
「そうですか。では隠せるものでもないですし、私が『呪われた子』だと呼ばれている理由をお話しても?」
「うむ」