オフィスのくすり

「ところで、このFAX、誰宛とも書いてないけど」

 もう一度、最初の一枚を見直していると、また音がして、もう一枚出てきた。

 もう目の辺りまで切れているくらい写真が大きくなっている。

 私は少し薄気味悪く感じ出したのだが、井上はなにやら楽しそうに三枚のFAXを見比べていた。

「これは面白い。
 いい暇つぶしだ」

「やっぱり暇なんじゃないの」

 そう溜息をついた後で、前を見たまま、大きな声を上げる。

「あんたも暇なら出てきなさいよ、和泉」

 和泉の動きを待つ間、井上も静かにしていた。

 いや、こいつはただ、FAXに熱中しているだけか。

 出てこないかと思った和泉だったが、少し間を置き、デスクの下から顔を出した。

 迷うような顔をしたあとで、彼は言う。

「……こんばんは」

 なんて間抜けな会話だ。

 こんばんは―ー。

 ちょっと前に、車で轢き殺しかけた相手に言う台詞だろうか。