オフィスのくすり

「あんた、暇ね。
 仕事ないなら帰ったら?

 ああ、帰るとこないか」

「……どつき殺そうか?

 だがまあ、確かに。
 今、こっちには家もないし。

 ひとりで寝るだけのホテルに戻ってもな。

 晩飯食ったか?」

「お弁当をちょっと。

 ほんとはそんなもの買いに行ってつまむより、さっさと仕事仕上げて帰ってゆっくりしたいんだけどね」

「息抜きしないと、かえって、はかどらないと思うが。

 お前も俺と一緒で仕事人間だが、仕事だけじゃ、いつか行き詰るぞ」

「耳が痛いわね~」
と言いながら、そういえば、仕事、途中で投げてたな、とがらんとしたオフィスの中を振り返った。

 そのとき、視界に動くものが入った。

 やはり居る……。

 何処かで何かが動いた。

 FAXの呪いなんかじゃなく、生きたものが動いている。

「確かに駄目男が好きなようよ……」
と呟いた。

 なんで隠れて聞いてんだ、和泉~っ、と思いながら、もうそちらは見なかった。