オフィスのくすり

「好きっていうかね。
 ただただ、引っかかってたの。

 別れた原因が自分にあって、あの人を見捨てた形になってたから。

 それで、ずっと心に残ってるんだと思ってたけど」

 うーん、と唸り、FAXに倒れ込む。

「かなり大変な人生だったはずなのに。

 再会したとき、ぜんっぜん変わってなくて。

 相変わらずの煩悩全開の情けなさに、やっぱりこの人、好きかもって思ったの。

 やっぱり、実は、ずっと好きだったのかな? 私」

「煩悩全開ね。
 お前の旦那、何者だっけ?」

「坊主」

「……なんかお前のこの先の人生も見えてきたぞ。

 お前、駄目男が好きだろう」

 じゃあ、俺はタイプじゃないな、と言う。

 いや、その基準なら、結構当てはまるのではないだろうか。

「ってか、なんで、私はあんたにこんな話してんのよ~」

 和泉が隠れて何処かで聞いているんじゃないかと思いながらも、言葉は止まらず、FAXに縋ったまま、台を蹴った。

「おい、壊れたらどうする。
 俺はこの後の展開が気になるぞ」

 このまま中国支社に帰ったら、夜も眠れないなどと言い出す。