以前は車通勤していたゆうひ工場長は、今は電車とバスを乗り継いで工場へ行っている。

 と思っていた。

 工場長が出て行った後、五分ほどしてポツポツと雨が降り始め、一気に大雨になった。

 天気予報では、晴れ、ところによって一時雨だ。
 運悪く、『ところによって』に該当してしまったらしい。

 折り畳み傘を持ち、傘を差してゆうひ工場長の後を追った。
 駅まで十五分かかる。急な雨に降られて困っているだろう。

 急げば追いつくはず!

 通り慣れた道のりで、ゆうひ工場長の背中を見つけたときには、どきりとした。

 持って出なかったはずの、傘を差していた。
 折り畳み傘を常備していたという可能性も捨てがたいけれど……きっと、隣の彼女の傘なのだろう。色柄的に。

 相合傘で歩いていく男女の背中を、距離を少しずつ詰めながら追った。

 似ているけれど、人違いかもしれないし。

 なんで相合傘?

 偶然通りがかった女性の傘に入れてもらったのだとしたら、すごいナンパの才能だ。

 まあ偶然通りがかった女に、壁ドンしてキスするような無神経さだもんな。
 傘に入れてもらうくらい、朝飯前なのかもしれない。