20分ほど走って、住宅街に入り、大きな門の前で止まる。
センサーで、門が空きそのまま玄関先まで車で入る。

凄い大きなお屋敷…
あーやっぱり緊張するよ…

「遥、変わった親だけど、心配ないからね?」

西園寺さんはそう言うと、車から降り、助手席の扉を開けてくれた。
私も一度深呼吸して降りた。
西園寺さんが、玄関を開けると、年配の女性が迎えてくれた。

「竜仁様お帰りなさいませ。」

「民子さんただいま。こちら遥さん宜しくね?」

民子さんは、竜仁さん達が生まれた頃から、お世話をしてくれているらしい。
とても優しい笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃいませ?」

「渡瀬遥です。よろしくお願いします。」とお辞儀をする。

するとパタパタと、走って来る足音がする。

「遥さん? 待ってたわ!」と、和服の女性に抱き付かれた。

目を丸くして驚いていると、西園寺さんが呆れた様に言う。

「お袋! 遥が驚いてるよ?」

「あら? ごめんなさいね? 母の君枝です。君ちゃんって呼んでくれていいわ!」

いえいえ呼べませんよ? お母様! と、ツッコミを入れたくなった。

「始めまして。 渡瀬遥です。 あのお口に合うと良いのですが…」と手土産を渡す。

「まぁありがとう。早速頂きましょう? 民子さんお茶をお願いね? さぁーひろ君が待ってるわ!」

ひろ君って誰だろう?
お母様について、奥のリビンに入る。

「ひろ君、遥さんがみえましたよ?」

リビングに入ると、ソファーに中年男性が座っていた。

ひろ君とは、お父様の事のようだ…

「遥ちゃーん! いらっしゃいーい。 逢いたかったよ?」とハグされ、頬にチュとされる。

「……」

隣にいる竜仁さんは、苦笑いをしている。

身分が違いすぎる、西園寺さんとお付き合いする事を、反対されるかと思っていたけど、なんか拍子抜けなんですけど…
これは、一応、私は歓迎されてるのかな?…

「…始めまして渡瀬遥です。今日は…」

「堅苦しい挨拶はいいよ座って?」と、私の手を引いてお父様の隣に座らせられる。

嘘でしょ?

「親父、ふざけるなよ!? 遥はこっち!」と腕を掴まれ、竜仁さんの隣に座らせられる。

アハハ…そうですよね? 良かった。
お母様もお父様もなんだか変わっている?

私が困惑してる中、民子さんがお茶を運んで来てくれた。

「まぁ美味しそうね? このチーズケーキ、テレビで紹介してたの見たわ! 一度食べてみたかったの遥さん有難う!」

お母様は、とても喜んでくれているようで、ホント良かった。

「君ちゃん僕のチーズケーキは?」

「ひろ君は、今日はもう、血糖値が上がっちゃうから、ダメよ!」

「えーせっかく遥ちゃんが持って来てくれたのに… 僕も食べたいよ?」

すねてみせるお父様にお母様は、

「じゃ、私のを少しだけあげるわ! はい、あーんして?」お母様にスプーンで食べさせて貰うと、とても幸せそうな顔をするお父様。

「いい加減にしろよな!?」

呆れる竜仁さんに、お母様は気にしない様子だ。

「あら良いじゃない? 両親が仲いいのは幸せな事じゃないかしら? ねー遥さん?」

「はい…そう思います。」

「ハイハイ… もう、遥に会わせたから、良いだろもう帰るから!」と竜仁さんは立ち上がった。

するとお父様の表情が変わる。

「せっかく来て貰ったんだ、話をさせてほしい座りなさい。」と言われ私は姿勢をただす。

「遥さん、竜仁はクレラントホテルNAGOYAの支配人を任せてるのは知ってるね?」

「はい…」

「竜仁にはゆくゆく、西園寺グループを背負ってもらおうと思っている。その為には竜仁を支えてくれる人を選ばなくてはいけない。」

やっぱり反対されるんだ…
そうだよね?

一般家庭の私なんかがつり合う筈がない…
そんな事分かっていた。分かっていたけど…
悔しくて涙が出そう。

でも今、ここでは涙を見せてはいけない。左手を右手で握りしめ、爪を立て涙をこらえた。

「おい、待て! そんな話は聞いていない。西園寺グループには、勝司が居るだろ!?
俺は、ホテル部門だけのはずだ?」

竜仁さんは身を乗り出し抗議する。

「昨日、勝士が話しに来た。
小野寺コーポレーションを継がせてほしいと…。
優里さんは、一人娘だからねぇ?

いつかは言ってくるのではないかと思っていた。
勿論、今までなら、反対していただろう。

竜仁はずっと、1人で居ると思っていたからな? だが、勝士から竜仁の気持ちに変化が出て来てると聞いた。
それならば話は違って来る。

竜仁、会社を継いでくれないか?
今すぐとは言わない。 私もまだ元気だしな?」

竜仁さんは膝の上で手を握りしめ、顔を歪めている。

「俺は遥しか要らない! …遥、以外なにも… 会社も要らない。
ただ遥が側に居てくれれば、それで良い。」

「遥さん、貴方のことは勝士から聞いている。
申し訳ないが、勝士がいろいろ調べたようだ。
すまないね?

仲の良いご両親に、愛情いっぱいに育てられ、人の気持ちのわかる素晴らしい娘さんだとかいてる。
稔にも気を配ってくれる優しい遥さんなら、竜仁を任せて大丈夫だと、勝士もいっていたよ?

竜仁を遥さんが側で支えてくれれば、西園寺グループも大丈夫だから、許して欲しいと勝士は頭を下げたんだ。

遥さんも一人娘だから、ご両親の事は考えるところはあると思う。
その辺は、竜仁もちゃんと考えるだろう。

どうか竜仁を側で支えて貰えないだろうか?
このとおりよろしくお願いします。」

お父様は机に手を付いて頭を下げてくれた。

「頭上げて下さい。
私なんかに頭を下げないで下さい。
私は一般家庭で育ちました。
西園寺家とは違い、両親は、地位や財産なんて有りません。

ただ愛情だけはたくさん注いでくれました。
私はそんな家族が、財産だと思っています。
竜仁さんは双子という事で、とても辛い思いをしたと聞いています。

私には到底わからない事だと思います。
でも、竜仁さんに二度とそんな思いをして欲しくない。 させたくないです。

お許しを頂けるなら、竜仁さんの側に居させて下さい。 お願い致します。」

私は、深く頭を下げお願いした。

「遥…ありがとう。」

竜仁さんは、目を潤ませ、抱き寄せてくれた。
お母様も涙を流し、喜んでくれていた。

「良かったわ! 今日はお祝いね? 一緒にお食事しましょ?」

「嫌だね!
親父から、遥にプロポーズするって、ありえないだろ?
俺の立場がないし! 遥、帰るぞ!」

竜仁さんに腕を引っ張られて、玄関を出た。

「まって、ご挨拶してから…」

「挨拶なんて良いから!」と車に押し込まれた。

お母様は玄関まで見送りに来て、

「遥さんまた明日ね?」と笑って手を振ってくれた。

「ったく、酷いよな!」と竜仁さんは苦笑いしていた。