「さすがに、トイレと風呂場は覚えてるだろ?」


「うん」


「当日、優花に任せるのはキッチンだから、どこに何があるかちゃんと覚えとけ」


「わかった」



食器棚を開けると、あまり使っていなさそうな食器ばかり。


グラス類は使うだろうから、奥までのぞいてみたら。


ペアのマグカップが置いてあった。




「へー、元カノとこういうの使ってたんだ」


「悪いか」


「じゃ、本番でもこれ使っちゃう?」



冗談で言っただけなのに、優樹さんが一瞬せつない表情になったのを、私は見逃さなかった。


まだ、元カノが好きなんだ。



「冗談だよ」


笑ってみせたけど、優樹さんは笑ってなかった。


せつない表情のまま、遠くをぼんやりと見つめていた。



「ご両親は何を飲むの?」


「コーヒー」


「じゃあ、このコーヒーマシーンの使い方教えて」


「ああ」