俺とチーフは、大通りから脇道に入った所にある和食の店に入った。大通りから逸れたのは、あるいは人目を避けるためかもしれない。

 当然ながら初めて入った店だが、チーフは和食が好きらしく、彼女と食べる時は圧倒的に和食が多いと思う。俺はどちらかと言うと洋食の方が好きだが、和食が嫌いという事はないので問題はないのだが。

 テーブル席に向かい合わせで座り、メニューを見る。


「私、秋刀魚定食にしようっと」


 前から気付いてはいたが、普段はクールこの上ないチーフだが、食事の時だけは言葉遣いとかが女の子っぽくなるんだ。チーフって、意外と食いしん坊さんなのかもしれない。


「ああ、いいですね。じゃあ、僕も……」


 という事で同じ物をオーダーし、店員さんが去ると、チーフはお茶を一口啜り、ふうと息を吐いて顔を上げた。


「佐伯君……」

「は、はい」


 どうやらチーフの方から昨夜の話を始めるようだ。

 こんな至近距離で彼女から見つめられる事なんて滅多にない、っていうか初めてかもしれず、俺は脈拍が急上昇し、その黒目がちの澄んだ瞳に、魂が吸い込まれそうな気がした。


「昨夜の事は……忘れてちょうだい」