クールな女上司の秘密

 真奈美が、俺のズボンを指で摘まんで言った。


「事情って?」

「黙ってようかと思ったけど、この際だから言う事にする」

「はあ……」


 真奈美がすくっと立ち上がり、俺と真奈美は並んで立つ形になった。


「今日はっきりわかったんですけど、私……赤ちゃんが出来ました」


 少し遅れて「おー」という歓声が上がったが、それを待つどころではない。


「本当に?」

「うん」

「なんで黙ってたんだよ?」

「だって、わからないじゃない。妊娠検査薬には誤検知があるらしいし……」

「そっか。病院って、それだったんだな。あ。医者は……男か?」

「言うと思った。女医さんの病院を選んで行ったわよ」

「よかった……」


 と、俺がホッとしたところで……


「お二人さん。そういった事は後でよいのでは……」


 再び鈴木さんから言われてしまった。


「出産予定日は8月だそうです」


 鈴木さん、逆算しないでください!


「私としては今の仕事を続けたいのですが、産休と育休を取る事になり、他にも何かとみなさんにご迷惑をお掛けする事を考えると……」

「いいじゃない?」

「そうだそうだ」

「佐伯ちゃんが協力すれば大丈夫っしょ。イケメンあらためイクメン、なんちゃって!」


 どっと笑いが起きた。俺はイケメンじゃないと思うが、それを除けば佐藤さんの言う通りだ。


「俺、頑張るから、真奈美は何も心配すんな。料理も覚えるし」

「知君、ありがとう」


 真奈美は俺に抱き着き、俺は戸惑いつつも真奈美を抱きしめ、そっと頭を撫でてあげた。脇の下に、冷や汗をビッショリかきながら。だって、みんなが見てるんだもん。


(おしまい)

※最後までのお付き合い、誠にありがとうございました。

2015.10.25 秋風月