「嬉しい!」


 今度は俺がチーフから抱きしめられた。柔らかな胸を、惜し気もなく俺に押し付けて。


「私も知君の事、大好き!」

「と、知君って……」

「ダメ? 私、あなたをそう呼んでみたかったの。それが私の夢だったの」

「別に構いませんけど、二人の時だけですよ?」

「わかってるって。ああ、夢が叶ったのね。幸せだわ……」


 “知君”だなんて、おもいっきり子ども扱いされてるようで本当は嫌だが、それでチーフの夢が叶うならよしとしよう。


「真奈美さん」

「知君!」


 俺達は互いに顔と顔を寄せ合い、あと数ミリで唇と唇が触れ合う、正にその瞬間だった。


ピンポーン


 ひどく間の抜けたように感じる音が聞こえた。


「ピザだわ!」

「待たせましょう?」

「ダメ。早く行って受け取ってきて」

「ちぇっ」


 ピザめ…… 何もこのタイミングで来ることないのになあ。

 俺は渋々チーフから離れ、ピザを受け取りに玄関へ行った。


「わあ、美味しそうー。ね?」


 テーブルに乗せた丸いピザを前に、チーフは目をキラキラさせた。チーフって、和食以外でもいいんだな。


「そうですね。いっぱい食べてくださいね」

「うん。知君も食べてね?」

「はい」

『いただきまーす!』


 さっきまでの甘いムードはどこかへ去り、チーフはすっかりピザに夢中だ。二日以上も食べてないなら当然だけれども。

 幸せそうにピザにかじりつくチーフを見て、あのクールな上司が、内面はこんな可愛い女の子だったんだなと、俺は感慨にふけった。もちろん、そんなチーフが俺はとても愛おしい。



「はあー、我ながらよく食べたわあ」


 ピザは2枚買ったのだが、その内の1枚強はチーフが食べたと思う。ちょっとびっくりした。

 ふうー、とか言ってお腹を丸くさするチーフはレアだ。見たことない。というか、今日のチーフはどれもみんなレアだ。レアのオンパレードだ。


「満足しましたか?」

「うん、大満足。知君は?」

「俺はまずまず、ってとこですかね」


 ピザと一緒に買った、缶のコーラを飲みながら、そんな返事をしたのだが……


「知君はまだ食べ足りない感じね。よかったら、食べてみる?」

「え? だって、ピザは全部食べちゃったじゃないですか」

「そうじゃなくて……私を」

「…………!」


 ブハッ

 俺は、口に含んだコーラを盛大に吹いてしまった。